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Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。


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カフェパ話。
続きというよりは、次への布石として。

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 約10年前。
 ジョウトのとある山中に立つ研究施設の周辺で、野生ポケモンが突然乱獲された。
 逃げ延びたポケモンたちは奮起し、仲間を助けるため殴り込みをかけた。
 ついでに捕らえられていたセレビィを解放した。
 ついでに幽閉されていたワケアリの少女を連れ出した。
 ポケモンたちは警察に知らせたが、その報告は誰かの圧力で揉み消された。

 その4年後、一連の事件の現場は謎の爆発事故で全焼した。
 真相どころか表層さえも人間たちは知らないまま、その山には誰も寄りつかない廃墟と、ポケモンたちの口伝だけが残っている。



 時は流れて――2010年。
 ジョウトの空を1匹のリザードンが飛んでいた。
「あの場所に行くのは正月以来だけど、場所分かってんのかー!?」
「僕がそんな大事なこと忘れるわけないよ。呪いでもかかってたら別だけど」
 その背中に座っているのは風呂敷包みを背負ったヤミラミ。たいした重さの積み荷ではないのでリザードンは様子を見ようとせず、時折気流にあおられて落ちそうになっても心配の一言もかけなかったので、ヤミラミは必死の形相でリザードンの首根っこにしがみついていた。
 声も風に流されてしまう。顔の後ろから話しかけるには、さらに力を込めないと届かない。
「前は陸路だっただろ! 空から場所分かるのか!?」
「地図くらい事前に確認してるよ。何年飛行タイプやってると思ってるわけ?」
 そう言った直後にリザードンは高度を下げた。またしても予告なし。気圧と風圧の急激な変化にヤミラミが悲鳴を上げた。

 大きな町と町をつなぐ道路が見えてくる。
 トレーナーが行き交い、あるいは勝負を持ちかけるべく待ち伏せているその場所から横道にそれて、彼を乗せた車が山道に向かったのは半年前のこと。
『ヒロ。お前が引き取られた年に、リスタが一度“夜逃げ”したことは覚えてるか』
 ハンドルを握る男の横顔を思い出す。配達の仕事で磨かれた運転技術は見事なもので、リザードンを普通車の後部座席に押し込んで未舗装の道を走ったのに、天井に頭をぶつけさせることが一度もなかった。
『忘れもしないよ。カフェの仕事は放棄。僕らには解散、好きにしていいって言って、自分は書き置きを壁に貼ってどっか行っちゃってさ』
『一応言うと借金してたのは本当だし、お前らやカフェを差し押さえられたくなかったからそんな手段に出たって本人は言ってたけどな。……問題は家を出てからだ。あいつは別に闇雲に逃げてたわけじゃない。かといって金策に走ってたわけでもなかった』
 そんな話を聞かされたのは、舗装はないが整備された石ころだらけの道が、ただ踏み荒らされて自然に出来たような細い道に変わった頃だったと彼は記憶している。繁茂した雑草の群れを分断する土色の2本線は森の奥に続く線路のようで、その先に見えたものと併せて強く印象に残っていた。
『リスタはまっすぐこの場所に向かったんだそうだ。それもサーリグだけを連れて』
 森の中に突如現れたコンクリートの壁。
 かつてそこに看板がはめ込まれていたと分かる長方形の空白。
『前の冬、お前がカフェに来る前だな。当時まだここを根城にしてた例の連中が何かの拍子にカフェの存在を知って、昔自分たちが取り逃がした娘がそこのオーナーをしてると知った。で、昔の事件を盾に取って脅迫してきた』
 開きっぱなしのまま錆び付いた鉄製の門を素通りして、車は高い壁に囲まれた敷地へ進入した。
 このあたりは日当たりがあまり良くないらしい。並び立つ木々はそれまでの道中で見てきたものに比べて生育が悪いように見えた。
 車のバックミラーに映る顔の色もわずかに悪いように見えるのは、きっと気のせいだろう。
『……ろくでもない連中だね』
『ああ、本当にろくでもない奴らだった』
 見えてきたぜ。
 助手席でそれまで黙っていたヤミラミが口を開くのと前後して、彼も確かに見た。
 木々に埋もれるように鎮座する低層の建造物。敷地を囲むフェンスと同じ色をしていたかもしれない壁面は黒くすすけ、いくつもの無惨なひび割れがガラス窓の枠を引き裂いている。
『きっぱり断ってもしつこく絡んできたばかりか、何度かカフェの常連客にもちょっかい出してきたもんだから、さすがにリスタもマジギレしたんだろう。口には出さなかったけど、かなり早い段階で報復を決意してたらしい』
 正面玄関らしい、それなりに広い入口の前で車を降りた覚えがある。真冬の冷たい風が吹き付けたのに寒さはあまり感じなかった。それは彼が炎ポケモンだからではない。彼の心はそのとき既に遠い昔へと飛んでいたのだろう。
『そして報復は実行された。堕天使様の本領発揮。装置もデータも残らず破壊し尽くされて、実験に荷担してた研究者とポケモンは全員……』

「……おい、ヒロ。ヒロ! 前見ろ、ぶつかる!」
 ヤミラミの悲鳴がリザードンの意識を昔から今へ、まさに今の時間へと引き戻す。とっさに羽ばたいた翼は空気の流れを変え、頭から突っ込もうとしていた大木との接触は結局、尻尾の炎がかする程度のもので済んだ。
 急減速から着陸姿勢へ。かわした枝の向こうに見えた空地が、ちょうど思い出していた玄関の前だった。
「ほらね。迷わず着いた」
「ほらね、じゃないだろ……危ないとこだったくせに」
「うるさい。飛べもしないナイツは黙っててよ」
「オレだって技使えば飛べるんだからな!?」
 騒ぎながら降り立った地面は緑色で、踏みしめた瞬間から草の匂いが熱気とともに立ちこめる。真冬との違いは明確だった。ふたりが見上げた問題の廃墟だけが、時間の流れから取り残されたかのように、全く変化のない姿でそこに立っている。
 中に足を踏み入れたときの記憶がよみがえる。
 じっとりと冷たい空気に身を震わせながら進んだその先で見た、当事者でもないのに忌々しく感じる、その記憶を振り払うようにリザードンは首を振った。
「……それにしたって」
 慎重に辺りを見回す。
 周囲には人っ子一人、ポケモン一匹さえも見あたらない。
「本当にその、事件のことを知ってるポケモンが……ここに来てるわけ?」
「オレらはそれを確かめるために来たんだろ? これから自分の目で確かめるしかないと思うぜ」
 リザードンの足下に着地したヤミラミが頭をかいた。



 約半月前。
 ジョウトのとある山中に立つ廃墟を、1匹のポケモンが訪れた。
 そのポケモンは周辺に住まう野生ポケモンに、ある人間のことを尋ねて回った。
 尋ね人の話はやがて麓で情報屋を営むカクレオンの耳に入った。
 カクレオンはその情報をカントーで暮らす彼の兄に知らせた。
 知らせを受けた兄はその情報を同居する2匹のポケモンに話した。

 そして、今。
 事件にもっとも深く関わったポケモンと、事件の当事者の一人をずっと思い続けたポケモンが、因縁の現場に立った。
 噂の主が探している人物のことをもっと詳しく聞くために。
 もし聞いた話のすべてが本当だったら、その人物の消息を教えるために。

「……あの、……あなたがたは、もしかして……?」


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ログを読み返し、過去にカフェで複数の人物に明かした話を少しずつ整理し、結びつけていく。
矛盾を出来るだけなくした状態で次へ進めたいから。
自分が張ってきた伏線の中に、少しでも希望のかけらを見いだしたいから。

でも、表現力の不足はやっぱりいつまでも続く課題だと再確認した。
本当は今回の話に入れたかったけど盛り込めなかったキーワードが一つある。これは次に持ち越し。
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自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。

ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
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