「野菜は掘り起こすまで正体が分からない」

Twitter300字SS 第七十三回参加作品

お題「隠す」
ジャンル：オリジナル、とある不思議な世界の話（薬屋の受付嬢シリーズ）
注意書き：特になし

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　見習い薬師が土だらけの物体を掲げると、先輩たちから悲鳴が上がった。
「それずっと探してたやつ！」
　見た目は奇妙な植物だが、触れれば鉱石と分かる。昨日訪れた客から預かった置物は貴重な品だったらしく、朝早くに借金取りが店に押しかけてきた。脅された受付嬢と薬師たちが言われるまま店内を探したが結局見つからなかった。
　ごろつきが諦めて帰るまで、そういえばこの見習いだけ店にいなかった。最初に気づいた先輩が声を荒らげた。
「どこに隠していたの？」
「そこ」
　彼は窓の外を指した。広い庭の大部分は薬草の葉が茂る畑だ。
「植えてあるものを勝手に掘り起こせば、うちの番犬が騒ぐから」
　納得と安堵と脱力がため息のアンサンブルを奏でた。


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字下げと改行を除いて300文字。

ハイファンタジーの世界に現実の表現やら言葉やらモノの名前やらを持ち込むな的な主張は時折耳にしますが、Ristaは「現実の自分たちが読む文章は翻訳扱いでいい」と思っている派です。

つい最近見かけたその手の話題から、例えば「木を隠すなら森の中」に相当する発想が彼らの世界にもあるのではと思い、そこから今回の話を組み立てました。