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Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。


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続き。
少しずつ気持ちを整理していく。

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「そういえばミコさんって…ほんと笑わないですよねー。」
 トリミング講座の途中、琴牙が唐突にそんなことを言い出した。
『笑ったほうがかわいいのに、デシ。きっとデシ。』
 練習台も兼ねてそばにいるセイントも同調する。しかしリスタは首を縦に振らず、笑ってみようともしなかった。
 そんな彼女を見て何を思ったのか、琴牙はこう言った。
「夜中に起きていてください。2時ごろ、部屋に迎えに行きます。」
 その裏にどんな提案が潜んでいるのかは分からない。しかし仮に罠だとしても、本心からの親切だとしても、断るにふさわしい理由をリスタは持っていなかった。疲れたと言うには時間が経ち過ぎたし、出かけようにも行く当てがない。
 いや、あるにはあったけれど。
 唯一のルートは朝食後に受け取った手紙の中に。

 失った感情を取り戻すか。
 自力で道を切り開くか。

 指定された午前2時。
 琴牙は宣言通り、リスタの部屋を訪ねてきた。向かった先はシオンの象徴、ポケモンタワー。以前にも一度同じ顔ぶれで行ったことのある場所だ。
 その途上、家を出る直前あたりから、リスタはずっと考えにふけっていた。誘われる直前の会話と、その前に読んだ手紙の内容との関連性。自分が何を求められ、何を期待されているか、ひとたび知れば意識せずにはいられない。……すぐ前を歩くドーブルのように楽天的な性格でもない限り。

 失った感情を突きつけられるか。
 何もない道を一人さまようか。

 青紫色の鬼火と非常灯を頼りに階段を上っていき、鍵がかけられた扉を開け放つと、多数のゴーストポケモンたちが待ち受ける屋上があった。琴牙は彼らに挨拶しながらヴァイオリンを取り出し、鎮魂歌(レクイエム)を奏で始めた。
 予想通りの言葉が来たのはその後だ。
「ミコさん…んー、リスタさんって、全然笑いませんよね。」
 しかも昼間の会話とほぼ同じ形で。
「何で笑わないのか詳しくは知りませんけど…あなたには笑ってほしいなぁ。」
 演奏の手は止めずに。
 ゴーストポケモンたちは目を閉じて旋律に聴き入っている。伴う言葉は聞き流しているのだろう。
「前にいったような、言ってなかったような。まぁとりあえず…ヒロ君たち、最近笑ってるのかなぁ。」
 一つの名前を持ちだした瞬間、リスタの表情が凍りついたことには気づいたのだろうか?
 琴牙の表情に動揺の色はない。
「ヒロ君、以前うちに泊まりに着てるんですよね。そのとき、彼泣いてたみたいなんですよ。」
 音楽はさりげなく哀歌(ラメント)へと移り変わる。
 初めて聞いた話に呆然とする彼女を置き去りにするように。
「彼の泣いたその理由。知り合いのブラッキーに彼のことを聞いたら、リスタさんが問題なんじゃないかって言われたんですよ。で、ボクは思った。ヒロ君や、ナイツ君たちが笑顔になるには…リスタさん、あなたが笑顔になればいいんじゃないかなって。」
 そして喜びを表した楽曲へつなげていく。
 語る言葉に込めた願いをそのまま表すように。
「あなたが笑顔になって、ヒロ君たちのところに戻って前の生活に戻れれば…、ヒロ君たち、笑顔になるのかなって。だから、ボクらは貴女を迎え入れたんですよ。」
 もしまだここに残るなら、愛情の注ぎ方を教えるから。
 そう言って、琴牙は演奏を切り上げる。
「ヒロ君たちと出会った頃のあなたを…取り戻してほしいな。」
 ゴーストたちが割れんばかりの拍手を浴びせる中、リスタは沈黙する。

 取り戻すのは何?
 手放したのは何?

「……笑わない理由なんて簡単よ。」
 迷った末、ようやく開いた口から、言葉は思いの外軽く宙に舞った。
「楽しくないから。幸せを感じないから。あの子たちと一緒にいたって何も喜べない、誰と何をしていたって何も嬉しくない、ただ苦しいだけなのに。そんな心で笑おうとしたってただの作り笑いにしかならないのよ。あなたが望んでるのはそういうのじゃないんでしょう?」
 一瞬にして凍りついた空気が、解き放った思いをさらに加速させる。
「どうして一緒にいたのか。どうして家族だったのか。何で一緒にいようとしたのか。覚えてないのよ。そういう関係があったっていう“事実”は記憶に残っているけど何故そうだったかっていう“感情”を思い出せない、それに今の私は何に触れてたって苦痛でしかないの。分かる? 分からないでしょう?」
 思い出すのは何日か前の話だ。講座の時だったか、琴牙から勧められるままにポケモンを抱いた。もふもふした感触は確かに気持ちよかったけれど、
 その笑顔が悪夢の中の記憶と重なった瞬間、反射的にそのポケモンを突き飛ばしていた。
 怪我はさせなかったはずだが彼女はしばらくその相手に近寄れなかった。琴牙はというと、困った顔で優しくなだめるにとどまっただけだったはずだ。
「だってあなたも私の気持ちを知ろうとしないんだから」

 その夜、リスタはそれきりで口を閉ざした。
 出て行くとも関わるなとも、ごめんなさいとも、言わなかった。




「おかえりなさい。久しぶりのカントーはどうだった?」

 ジョウトのとある山奥。
 荒れ果てていた土地に築き上げた農場に隣接した小屋で、すっかりくたびれて帰ってきたカインを出迎えたのは、エルダが用意した温かいミルクだった。雷雨に見舞われ体温をだいぶ奪われたところにこれはありがたい。迷わず喉を潤し、体を温めながら、切り株で作った手作りの椅子に腰を下ろした。
「向こうも何とかうまくやってるみたいだな。ヒロも思ったより元気そうだった」
「リスタちゃんは?」
 向かいに座ったエルダが尻を乗せたのはもっと太い株を使った椅子だ。住人たちの体格差を考慮して作られた椅子はどれも形が違い、一部の来客用を除いたものはそれぞれ各人の専用となっている。
「それが向こうにはいなかった。1ヶ月くらい前からよそに預けられてるんだそうだ。琴牙って覚えてるか?」
「もちろん。前にヒロちゃんがお世話になったブリーダーの子でしょう?」
「そいつがどういう風の吹き回しか、今回の件に首を突っ込んでるんだと。ポケモンでもない、今や人間ですらないもんをどう扱うんだって統轄本部の連中もハラハラしてるらしいけど、大方の予想を裏切ってかなり大人しくしてるらしい」
「そう。……それは良かったわぁ」
 何故かエルダは嬉しそうに両手を合わせた。
 意味が分からず「は?」と聞き返すカインには、静かな笑みとウインクを返す。
「あの人だったら安心して任せて大丈夫。きっと良くなってくれるわ」
「何で……最近の琴牙、もふもふ宣教者ぶりに磨きがかかって暴走に歯止めが利かなくなってるって風の噂に聞いたんだけど」
「だからこそよ。愛情たっぷりってことでしょ?」
 ミルクのおかわりは?とさりげなく聞きながらエルダは席を立って、カインの答えを待たずにピッチャーを取りに行った。
「最近思ったんだけど、リスタちゃん、昔から全部『誰かのために』って言って自分のことは全部犠牲にしてきたでしょ。もしかしたら、用なしと思われて見捨てられるのが嫌で、身を削ってでも尽くし続けていたんじゃないかしら。……きっと、上手な甘え方が分からないのね」
「そういうもんかねえ……」
「そういうもんなのよ。本当もったいないわぁ。あんたたち男は黙って漢でいればいい、でも女の子はこういうとき甘えても情けないってことにはならないのに。せっかくの女の特権を使わないなんて」
「……エルダ、お前……」
 個室へ続く廊下の陰から向けられた視線を気にして、カインは口ごもった。
 エルダも視線に気づいてはいたが何も言わず、しかしさりげなく別のカップを上の棚から下ろしてきた。

「何も対価を出さなくても幸せが手に入る、そういう時間が必要なのよ。そうじゃなきゃ休日じゃないでしょ?」


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いじけてるわけじゃない。
多分、言葉が言葉の表面でつるつる滑って、うまくくっついてくれないだけ。

このSSが、「舞台」上で変な方向に逸れても最悪の事態にならないセーフティネットとなってくれればいいなあ。
……と、未来の自分に願っておく。
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化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。

ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
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