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Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。


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少しずつ崩れていく。
少しずつ立て直していく。

カフェパ話。

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「あーるーちゃーーんっ」
 背後から回り込んできた両腕の存在に気づいたとき、既にアルビレオの背中には人ひとり分の加重がのしかかっていた。後ろから押されたのだから当然よろけるのは前方へ。少しだけ反動がついて上半身を起こす頃には、飛びついてきた相手の重心も後ろへ行っていて、多少は軽くなる。
 それでも背中に密着するものがある。妙に温かく柔らかい感触の正体に気づくまでに、そう長い時間はかからなかった。
「え、エリーさん……あの、ちょっとくっつき過ぎじゃないですか?」
「いいじゃなーい、せっかくこっち来てくれたんだからー」
 聞こえてくる声は妙に艶っぽく、しかも発信源は無駄に近い。唇が耳たぶに触れてしまいそうな至近距離。一音発するごとに吐息がダイレクトに耳へ入ってくるとあって、アルビレオは自身の頬の紅潮を諦めるしかなかった。心臓には悪いけど寒気よりはマシだ。
「定例会議は終わったんですか?」
「もちろん。今夜はうるさいのがいないし、本っ当ーに楽だった。毎回こうだったらいいのに」
「あぁ、ラキスさんいないんでしたね……って、そうじゃなくて。エリーさん仮にも議長でしょう? 会議終わった後もいろいろやることあるんじゃないんですか?」
「それも全部終わったの」
 会議は二人の後ろにある壁の向こうで先ほどまで行われていた。列席するのは統轄本部の元にまとめられた各団体のリーダーたちであり、いわば組織の幹部といっていい面々だ。アルビレオは参加資格を与えられておらず、しかしある理由から待機を命じられていたためこうして隣室に控えていた。
 エリーはアルビレオの両肩を胸と腕で挟み込むようにして押さえ込み、空いた手で彼の頬をつついてみた。しかし少し顔を背けられただけであんまり面白い反応がなかったので、唇を頬へ近づけたら、今度はしっかり手で振り払われた。
「……アルちゃんまで冷たい。つまんなーい」
「つまんない、じゃないですよ。前にここでこうやってあなたに付き合ってたら、なんだかんだ言って引き留めて、そのまま自分の部屋まで引きずり込もうとしたじゃないですか」
「だって一人で寝るの寂しいんだもん」
「メープルさんにもらったぬいぐるみは」
「だってテディちゃん冷たいんだもん」
「………………」
 彼女はどう見ても添い寝が必要な年ではないが、ほぼ等身大のユキカブリのぬいぐるみを抱きしめてベッドに座り込んでいる様子を一瞬想像し、思いの外違和感がなかったのでアルビレオは笑いそうになった。しかしその顔に気づかれると変な誤解を受けそうなので、すぐに別のことを考えようと努めた。
 会議の内容を聞こう、と思いついた。
「そうだ、アルちゃんにお願いがあったんだ。これこれ」
 口に出す前に先手を取られた。
 エリーが片腕だけ離し、さらに身を乗り出すと、反対側の肘にかけていたハンドバッグを手探りであさり始める。「んっ」とか「ああっ」とか、探る手を動かすたびに色っぽい声を絞り出していたが、これはわざとやっているようだったので、アルビレオは冷静に作業を見つめていた。
 やがてバッグから引っ張り出されたのは白い箱だった。その大きさからすぐに名刺入れと分かった。
「これね、今朝出来たばっかりなの。持ってって」
「……何ですか?」
 アルビレオは自分の手の上に落とされた箱を見て、側面を静かに開けた。中には箱の外観や重さと違わない枚数の名刺がぎっしり詰められている。カードの束は箱を傾けると静かに滑り出てきた。
 薄い空色の紙に、2つの国の言葉でこう印字されていた。

“誰にも信じてもらえないお悩み、不思議な事件、解決します。お気軽にご相談ください”

「フェザーリング社、調査部。救助隊ビフレスト……これって」
「そう。この前の時空改変で手伝ってもらった救助隊のヒルドちゃん。正式に提携したの」
 名刺を持ったまま見返すアルビレオと、得意げなエリーの視線がぶつかる。頬と頬が触れ合うくらいの距離では互いに相手の目元しか見えなかったが。
 一枚の羽根を丸めて先端と根本をつなぎ合わせた、そんな形状をした指輪が名刺の左側に銀色の線で描かれている。昨年にここハクタイシティの拠点で立ち上げられた会社のシンボルマークだった。以前アルビレオは同じマークの横に「社長」と書かれた白い名刺を、他でもない、エリーから受け取っている。
「本当にやるんですか、こんな名刺まで作っちゃって……それに、もともとこれ、イベント準備の会社じゃなかったですか?」
「舞台設営だけじゃせっかく集めたポケモンたちの力が生かし切れないのよ。それにポケモンの人材派遣自体は去年のうちから始めてるわよ?」
「それは知ってますけど、救助隊の名前を出すってことはこれ、明らかにイベントじゃないですよね。事件とか問題とか、そっちですよね」
「そうね。だから大々的に宣伝してくつもりはないの。しばらくは困った人のための隠れた味方路線で行こうと思って」
 彼女の目は自信に満ちあふれ、輝いているようだった。
「で、もしアルちゃんの周辺で誰かお困りだったら、それを渡してくれると嬉しいんだけど」
「……はい? 僕がですか?」
「紹介状ってこと。あ、でもカフェの子だとその電話番号使えないわ……ちょっと待ってて」
 また背中と胸の接点が擦れる。エリーはハンドバッグから事務用のボールペンを取り出し、アルビレオの手から名刺の最初の一枚を取ると、右下のスペースにこう書きつけた。

“カフェをご利用の方は、朱月かその手持ちが相談を承ります”

「できたっ」
「……いいんですか、勝手に名前書いちゃって……」
「大丈夫大丈夫。やってることは今までと大差ないのよ。それに……」
 続いた言葉は彼の表情を凍りつかせた。



 会議場、エリーの自宅から最寄りの霧はハクタイの森にある。
 依頼を受けてから数十分後、アルビレオは京と八雲、魔術師の弟子のカラカラと共にその場所への道を歩いていた。
 これまで島へ戻る面々はラキスの転移魔法で霧までの道のりを短縮していたのだが、術者の入院は当然この手段を使えなくしていた。また、先月の末までに相次いだ襲撃がいずれも標的が一人きりの時に起きていることから、総責任者マックスは本部直属部署の関係者全員に「常に2人以上で行動すること」を命じている。そのために彼らはこの顔ぶれでの集団帰宅となっていた。
「口では『食べるつもりはない』なんて言ってるけど、あれ絶対いつか丸呑みにする気だよ!」
 しゃべるのはもっぱら八雲で、他の3名は一貫して押し黙っている。
 カラカラは八雲の話に相づちを打っているようだった。人間の姿をした二人に比べて背が低いので動きも目立たないが、うなずく仕草だけはとんがり帽子が連動して大きく動くのでかえってわかりやすかった。
 八雲に肩の上を貸している京は何があっても黙っていた。目立った動きは風に飛ばされた葉っぱが顔面に直撃しそうになるのを片手で振り払うくらい。
 そしてアルビレオはというと、考え事をしながらゆっくり歩いていた。時折同行者との距離が開きそうになってはカラカラの骨で足を小突かれ、思考を中断しては追いつき、また歩みが遅くなるといったサイクルを繰り返している。
 考えることをやめる瞬間さえも、彼の脳裏には一つの言葉が焼きついていた。

『……いろんな難事件の経験を積めば、私たちが追ってる事件の手がかりも、掴みやすくなるかもしれないでしょ?』

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積極的に動かないと、自分にふさわしい仕事は見つからない。
一つのことに集中するには時間が余りすぎているなら、他のことを始めよう。

追記:10日の夕方頃の話。この後、アルは八雲と一緒にカフェを訪れます。
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Rista
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非公開
自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。

ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
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