Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。
カフェパ話。
3日くらいかけて書いた長文。
これの一部の台詞が固まらなくてずっと悩んでたら英語の方を書く時間がなくなった。
3日くらいかけて書いた長文。
これの一部の台詞が固まらなくてずっと悩んでたら英語の方を書く時間がなくなった。
※後で加筆修正するかもしれない。
--------------------
メモ帳のページを繰りながら、リザードンは呟く。
「何も変わらない、何もなくならない安心なんて、ずっと続けばただの退屈でしかないよ」
――瞬時に燃え上がる憤怒。
(知識。それが、あなたにとって大事なことなのね?)
ある信念を持って作戦に挑んだ少女の前に、彼女は凶器を携えて立ちはだかった。
(そう。だったら……痛みを知ればいい。)
黒い霧で強引に閉ざした世界の中で、視界の中心で、刃を振り下ろした。
(夢を力でひねり潰される苦しみ、その身をもって識ればいい!)
頭を殴ったこと、一度。
二度目は横やりが入って防がれた。
その時に何かを言われたような気がしたが、彼女はすぐに忘れてしまった。
記憶も目的も対象も原因も契機も、全部、形を持たない真っ黒な雫に溶けてしまった。
――遅れて目を覚ます矜持。
「私も詳しく観たわけではありませんが」
東雲京がこう前置きする場合は決まって、彼らが調査の手を伸ばしてつかめる範囲の情報を彼女がすべて調べ尽くした後だ。多くは非連携世界のデリケートな事情についての問題で、これ以上の深入りが危険だと判断したとき。あるいは知りすぎる弊害をふまえた自主規制。どちらにせよ彼女は暗に「詳細についての質問は受け付けません」と言っているのである。
だから朱月は黙ってうなずき、ただ続きを促す。
「例の器、本来はより多彩な機能を有していたようです。ただの魔力補充用の道具にしては無駄の多い設計であることはニーナさんも指摘していましたが、調べた結果、余剰スペースの一部に何らかの術式を組み込もうとしていた痕跡が見つかりました」
二人は振り返る。
合計4つ、いや5つの瞳に、浮遊する2個の小さな球体が映る。
「一部は巧妙に組み替えられて別の機能に生かされていますが、やや強引な連結も見られます。おそらく後から意図的に書き換えられたものかと。術式構造にわずかな差異が見受けられましたから、第三者の介入も疑われます」
「元々の制作者の意図を考えると、何をしようとしてたのかはだいたい想像がつくよ。確かあいつがああなった原因までは話してないはず。そこに切り込まずに問題を解決しようとしたら、まずは『留め置けない』部分だけ何とかしよう、そう考える人は多いと思う」
貯蔵されていたパワーを放出しきった黒い月。
光を浴び続けて十分なパワーを蓄えた白い月。
わずかにも満ちない、あるいは欠けない、完成された対照形が空間を踊る。
「いかがなさいますか」
「制作者本人と手を加えた人物、両方の意思を尊重させてもらうよ。たとえ当初の予定と違うとしても存在の安定化に一役買ってるのは事実だし、もしもからくり人形が本気で問題の根本を正面突破する気になっても、きっと自分で改良しようとするんじゃないかな。あいつはそういう奴だから」
「プライド……ですか」
「そう。人に頼りっぱなしで黙ってるなんて我慢できないに決まってるよ」
双子の月を手に入れた主は今、その奥に鎮座する機械仕掛けの棺に眠っている。
文字通り、眠っている。
「聖誕祭の夜に倒れて、今日で……十六日。そろそろ起きてもらわないとね」
――今更気づかされる怠惰。
(何が、欲しかったんだろう)
彼女は漂っていた。
自身以外の何も存在しないこの場所で、意識だけが漂っていた。
(……私は……何を、したかったんだろう)
もっと正確に言うならその表現もあまりふさわしくない。
その世界は彼女そのものであって、彼女の意識そのものであって、彼女の構成要素でもあった。
(あのとき、何か大事なことに気づいたような……気づいていたような)
だから、虚空に手を伸ばす行為も、単なるイメージの一部に過ぎない。
実体として知覚してくれる第三者がいない空間など、何も存在しないに等しいのだから。
(そんな気がしたのに……思い出せない)
それでも彼女は手を伸ばした。
見えない手を、存在しない場所へ、差し出していた。
――未だ尽き果てない願望。
「そりゃ、夢なんて持てるはずもないよ。何も見てないんだから」
昼下がりの、雑貨屋の店先。
レサトは色も形も様々な商品が並べられた一角に腰を下ろしていた。ごちゃごちゃしている陳列棚の上では、身動きしなければ彼女も売り物の一つのように見えてしまう。
「ヒロには何か夢があるのか?」
「一応ね」
「それはどんな夢なんじゃ?」
「……ポケモンリーグに出たいんだ。仲間と一緒に」
レジ前で頬杖をついたまま、ヒロは店の壁に貼られているポスターを指さした。それは確かにリーグの宣伝をしていたが、もう何年も前のもので、日に焼けてすっかり色あせている。
「この店にもいろんなトレーナーが来るけど、連れてるポケモンに話を聞くと、たいてい一度は目指したかもう出てるかしてるんだよね。さすがに上位ランクまで行った強者はそうそう来ないけど」
「そうか。ライバルは多いんじゃな……どうしてそれを目指そうと思ったのじゃ? 別に強くなくても、生きていくことはできるのじゃ」
「それじゃ面白くないわけ」
来店する客の気配はない。
ポッポの鳴き声だけがひさし越しに聞こえてくる。
「せっかく頑張れば何かできる体に生まれてるのに、何もしないなんてもったいないよ。ポケモンは頑張ればそれだけ強くなれるし、トレーナーさえいれば世界も目指せるのに。……今はトレーナーいないけど」
「いないのに思うのか?」
「いないから思うんだよ」
「……そんなものなのか?」
「そんなものなわけ」
尻尾の炎は静かに揺れている。
店の片隅に置かれたガラスの花瓶に、その輝きが映り込んでいる。
「自分に足りないものがあるって気づけば、欲しくなったり埋めたくなったりする。それが“夢”になるってわけ」
――人知れず沸騰する嫉妬。
(……世界はこんなに明るかったかしら)
二本の足で立って歩くことを思い出した頃、彼女は再び“外”へ出た。
しかしどこへ行きたいとも思えず、さまよい歩いていると、見知った顔に出くわした。
(どうして笑っているの?)
ひと暴れする前に収容されていた病院へと連れ帰られる途中、見知らぬ人間とすれ違った。
連れ戻された先で何かを言われている間も、心奪われた「その瞬間」のことが頭から離れなかった。
(どうしてそんなに、楽しそうなの?)
自分にも「嬉しい」という感情は一応あるらしい、前にそんなことを指摘された記憶が頭をよぎる。
いつも事実関係は思い出せても、伴うのは寂しさと空しさばかりで、何故かその気持ちが再びわき上がることはないのだった。
――何もかも飲み込む本能。
「そりゃあ、そんなに特別なことじゃあないだろう」
フーディンはいとも簡単に言ってのけた。
「なんでも心に深い傷を負った後、その痛みを回避するために、様々な感情を自ら封じ込めることがあるんだとか。なあんにも感じないようになれば、苦しみもまた感じなくなるってわけだ」
「さらっと言うなぁ……」
「心ってのはうまいこと出来てるもんだ、と自分は思ったがなあ」
風邪を引いた主人に代わって久しぶりに買い物に来たというこのフーディンは、かつてこの雑貨屋を切り盛りしていた女主人のことをしっかり記憶していて、店番をしていたヤミラミにその行方を尋ねた。
ナイツは当初適当にお茶を濁すつもりでいたのだが、相手はポケモンの中でも飛び抜けた知能を持つ種族。言葉の端々をすくい上げられ、結局、本当の概要を白状させられてしまった。
そして聞くだけ聞いて、感想は実にけろりとした顔で述べられたのだった。
「逆に過敏になりすぎて、ちょっとした刺激で怒りが爆発したり、眠れなくなったり。心を閉ざして、人を信用できなくなったり。症状はケースバイケースだがなあ、どれにしたって言えるのは『その体験』のショックが強すぎて、生々しい記憶がずうっと残ってること。時間が経てば楽になる、なんてもんじゃあないんだそうな」
どこでそんな知識を、とナイツは尋ねた。
本で読んだ、と客は答えた。
「ショックを受けた出来事にお前さんが関係してるんなら、距離を置いたのは正解だがなあ。代わりに誰かが寄り添ってやる必要がある。誰でもいいってわけじゃあないぞ。つらあい記憶に共感しすぎて引きずられることのない、自分をしっかりと持ってる奴がいい。その、引き取ってくれたっていうお医者様が、そういう人だといいんだが」
「……その辺は大丈夫だろ。多分」
思い返せば、そんなに多く会話したわけではないが、少なくとも同情的になりすぎるようなタイプではなかった気がする。
ナイツは頭をかいた。
自分が人を通じてトレーナーに届けたものは、そういえば、そんな風に確立された存在とは正反対のものだった。
そんなことして大丈夫だったんだろうか?
――置き去りにされた愛情。
「それ」はタマゴの中から、揺れ動き移り変わる世界を感じ取っていた。
視える目がないなりに、視界が閉ざされているなりに、機能する感覚すべてで「見て」いたのかもしれない。
最初に自分を抱いたのは、ふんわりと暖かい、親のぬくもりだった。
その親から自分を受け取ったのは、慎ましく静かな、家族の優しさだった。
その家族のひとりが自分を手渡したのは、素早く安全な、運び屋のルートだった。
その運び屋が自分を届けたのは、何かが不安定な、不思議な匂いのする場所だった。
後に人間たちの病院であると知ることになるその場所で、「それ」はある女の手に渡った。
女が抱える気性の荒さ、警戒心と恐怖心の棘は、これから生まれてくる自分へ大きな不安を押しつけてきた。
早く生まれたい、外へ出てもっとあの暖かい場所に近づきたい、と思っていた「それ」は、いつしか生まれることを諦めかけ、また恐れるようになっていた。
途中から熱を持った誰かが自分と一緒にいてくれるようになって、時々慰めの声をかけてくれたけれど、体の芯を貫くような冷たさを振り払うことは出来なかった。
しばらくして、あの冷えた手は自分を手放してしまった。
捨てられた自分を拾ったのは、ひんやりしたけど何故か怖くない、親切なポケモンの手だった。
そのポケモンに連れられた自分が行き着いたのは、どこかに凍えた心を隠しながらも、想う誰かのために生きている人の手元だった。
その人の周りには、とても暖かい仲間がいて、自分を大事にしてくれた。
元気に生まれてきてほしい、と願われてきたことを思い出した。
生まれたい、と思った。
外を見てみたい、と改めて思った。
--------------------
冒頭のみ、10日夜に起こした問題行動から抜粋。
途中からは実はログ内では発言していないが、彼女の中ではきっとこんな感じでいろいろ渦巻いてた。
器に関しては提供者(もやしさん)のブログの記事も参考にしました。
知っても知らなくても大して影響のない範囲にとどめていますが。
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メモ帳のページを繰りながら、リザードンは呟く。
「何も変わらない、何もなくならない安心なんて、ずっと続けばただの退屈でしかないよ」
――瞬時に燃え上がる憤怒。
(知識。それが、あなたにとって大事なことなのね?)
ある信念を持って作戦に挑んだ少女の前に、彼女は凶器を携えて立ちはだかった。
(そう。だったら……痛みを知ればいい。)
黒い霧で強引に閉ざした世界の中で、視界の中心で、刃を振り下ろした。
(夢を力でひねり潰される苦しみ、その身をもって識ればいい!)
頭を殴ったこと、一度。
二度目は横やりが入って防がれた。
その時に何かを言われたような気がしたが、彼女はすぐに忘れてしまった。
記憶も目的も対象も原因も契機も、全部、形を持たない真っ黒な雫に溶けてしまった。
――遅れて目を覚ます矜持。
「私も詳しく観たわけではありませんが」
東雲京がこう前置きする場合は決まって、彼らが調査の手を伸ばしてつかめる範囲の情報を彼女がすべて調べ尽くした後だ。多くは非連携世界のデリケートな事情についての問題で、これ以上の深入りが危険だと判断したとき。あるいは知りすぎる弊害をふまえた自主規制。どちらにせよ彼女は暗に「詳細についての質問は受け付けません」と言っているのである。
だから朱月は黙ってうなずき、ただ続きを促す。
「例の器、本来はより多彩な機能を有していたようです。ただの魔力補充用の道具にしては無駄の多い設計であることはニーナさんも指摘していましたが、調べた結果、余剰スペースの一部に何らかの術式を組み込もうとしていた痕跡が見つかりました」
二人は振り返る。
合計4つ、いや5つの瞳に、浮遊する2個の小さな球体が映る。
「一部は巧妙に組み替えられて別の機能に生かされていますが、やや強引な連結も見られます。おそらく後から意図的に書き換えられたものかと。術式構造にわずかな差異が見受けられましたから、第三者の介入も疑われます」
「元々の制作者の意図を考えると、何をしようとしてたのかはだいたい想像がつくよ。確かあいつがああなった原因までは話してないはず。そこに切り込まずに問題を解決しようとしたら、まずは『留め置けない』部分だけ何とかしよう、そう考える人は多いと思う」
貯蔵されていたパワーを放出しきった黒い月。
光を浴び続けて十分なパワーを蓄えた白い月。
わずかにも満ちない、あるいは欠けない、完成された対照形が空間を踊る。
「いかがなさいますか」
「制作者本人と手を加えた人物、両方の意思を尊重させてもらうよ。たとえ当初の予定と違うとしても存在の安定化に一役買ってるのは事実だし、もしもからくり人形が本気で問題の根本を正面突破する気になっても、きっと自分で改良しようとするんじゃないかな。あいつはそういう奴だから」
「プライド……ですか」
「そう。人に頼りっぱなしで黙ってるなんて我慢できないに決まってるよ」
双子の月を手に入れた主は今、その奥に鎮座する機械仕掛けの棺に眠っている。
文字通り、眠っている。
「聖誕祭の夜に倒れて、今日で……十六日。そろそろ起きてもらわないとね」
――今更気づかされる怠惰。
(何が、欲しかったんだろう)
彼女は漂っていた。
自身以外の何も存在しないこの場所で、意識だけが漂っていた。
(……私は……何を、したかったんだろう)
もっと正確に言うならその表現もあまりふさわしくない。
その世界は彼女そのものであって、彼女の意識そのものであって、彼女の構成要素でもあった。
(あのとき、何か大事なことに気づいたような……気づいていたような)
だから、虚空に手を伸ばす行為も、単なるイメージの一部に過ぎない。
実体として知覚してくれる第三者がいない空間など、何も存在しないに等しいのだから。
(そんな気がしたのに……思い出せない)
それでも彼女は手を伸ばした。
見えない手を、存在しない場所へ、差し出していた。
――未だ尽き果てない願望。
「そりゃ、夢なんて持てるはずもないよ。何も見てないんだから」
昼下がりの、雑貨屋の店先。
レサトは色も形も様々な商品が並べられた一角に腰を下ろしていた。ごちゃごちゃしている陳列棚の上では、身動きしなければ彼女も売り物の一つのように見えてしまう。
「ヒロには何か夢があるのか?」
「一応ね」
「それはどんな夢なんじゃ?」
「……ポケモンリーグに出たいんだ。仲間と一緒に」
レジ前で頬杖をついたまま、ヒロは店の壁に貼られているポスターを指さした。それは確かにリーグの宣伝をしていたが、もう何年も前のもので、日に焼けてすっかり色あせている。
「この店にもいろんなトレーナーが来るけど、連れてるポケモンに話を聞くと、たいてい一度は目指したかもう出てるかしてるんだよね。さすがに上位ランクまで行った強者はそうそう来ないけど」
「そうか。ライバルは多いんじゃな……どうしてそれを目指そうと思ったのじゃ? 別に強くなくても、生きていくことはできるのじゃ」
「それじゃ面白くないわけ」
来店する客の気配はない。
ポッポの鳴き声だけがひさし越しに聞こえてくる。
「せっかく頑張れば何かできる体に生まれてるのに、何もしないなんてもったいないよ。ポケモンは頑張ればそれだけ強くなれるし、トレーナーさえいれば世界も目指せるのに。……今はトレーナーいないけど」
「いないのに思うのか?」
「いないから思うんだよ」
「……そんなものなのか?」
「そんなものなわけ」
尻尾の炎は静かに揺れている。
店の片隅に置かれたガラスの花瓶に、その輝きが映り込んでいる。
「自分に足りないものがあるって気づけば、欲しくなったり埋めたくなったりする。それが“夢”になるってわけ」
――人知れず沸騰する嫉妬。
(……世界はこんなに明るかったかしら)
二本の足で立って歩くことを思い出した頃、彼女は再び“外”へ出た。
しかしどこへ行きたいとも思えず、さまよい歩いていると、見知った顔に出くわした。
(どうして笑っているの?)
ひと暴れする前に収容されていた病院へと連れ帰られる途中、見知らぬ人間とすれ違った。
連れ戻された先で何かを言われている間も、心奪われた「その瞬間」のことが頭から離れなかった。
(どうしてそんなに、楽しそうなの?)
自分にも「嬉しい」という感情は一応あるらしい、前にそんなことを指摘された記憶が頭をよぎる。
いつも事実関係は思い出せても、伴うのは寂しさと空しさばかりで、何故かその気持ちが再びわき上がることはないのだった。
――何もかも飲み込む本能。
「そりゃあ、そんなに特別なことじゃあないだろう」
フーディンはいとも簡単に言ってのけた。
「なんでも心に深い傷を負った後、その痛みを回避するために、様々な感情を自ら封じ込めることがあるんだとか。なあんにも感じないようになれば、苦しみもまた感じなくなるってわけだ」
「さらっと言うなぁ……」
「心ってのはうまいこと出来てるもんだ、と自分は思ったがなあ」
風邪を引いた主人に代わって久しぶりに買い物に来たというこのフーディンは、かつてこの雑貨屋を切り盛りしていた女主人のことをしっかり記憶していて、店番をしていたヤミラミにその行方を尋ねた。
ナイツは当初適当にお茶を濁すつもりでいたのだが、相手はポケモンの中でも飛び抜けた知能を持つ種族。言葉の端々をすくい上げられ、結局、本当の概要を白状させられてしまった。
そして聞くだけ聞いて、感想は実にけろりとした顔で述べられたのだった。
「逆に過敏になりすぎて、ちょっとした刺激で怒りが爆発したり、眠れなくなったり。心を閉ざして、人を信用できなくなったり。症状はケースバイケースだがなあ、どれにしたって言えるのは『その体験』のショックが強すぎて、生々しい記憶がずうっと残ってること。時間が経てば楽になる、なんてもんじゃあないんだそうな」
どこでそんな知識を、とナイツは尋ねた。
本で読んだ、と客は答えた。
「ショックを受けた出来事にお前さんが関係してるんなら、距離を置いたのは正解だがなあ。代わりに誰かが寄り添ってやる必要がある。誰でもいいってわけじゃあないぞ。つらあい記憶に共感しすぎて引きずられることのない、自分をしっかりと持ってる奴がいい。その、引き取ってくれたっていうお医者様が、そういう人だといいんだが」
「……その辺は大丈夫だろ。多分」
思い返せば、そんなに多く会話したわけではないが、少なくとも同情的になりすぎるようなタイプではなかった気がする。
ナイツは頭をかいた。
自分が人を通じてトレーナーに届けたものは、そういえば、そんな風に確立された存在とは正反対のものだった。
そんなことして大丈夫だったんだろうか?
――置き去りにされた愛情。
「それ」はタマゴの中から、揺れ動き移り変わる世界を感じ取っていた。
視える目がないなりに、視界が閉ざされているなりに、機能する感覚すべてで「見て」いたのかもしれない。
最初に自分を抱いたのは、ふんわりと暖かい、親のぬくもりだった。
その親から自分を受け取ったのは、慎ましく静かな、家族の優しさだった。
その家族のひとりが自分を手渡したのは、素早く安全な、運び屋のルートだった。
その運び屋が自分を届けたのは、何かが不安定な、不思議な匂いのする場所だった。
後に人間たちの病院であると知ることになるその場所で、「それ」はある女の手に渡った。
女が抱える気性の荒さ、警戒心と恐怖心の棘は、これから生まれてくる自分へ大きな不安を押しつけてきた。
早く生まれたい、外へ出てもっとあの暖かい場所に近づきたい、と思っていた「それ」は、いつしか生まれることを諦めかけ、また恐れるようになっていた。
途中から熱を持った誰かが自分と一緒にいてくれるようになって、時々慰めの声をかけてくれたけれど、体の芯を貫くような冷たさを振り払うことは出来なかった。
しばらくして、あの冷えた手は自分を手放してしまった。
捨てられた自分を拾ったのは、ひんやりしたけど何故か怖くない、親切なポケモンの手だった。
そのポケモンに連れられた自分が行き着いたのは、どこかに凍えた心を隠しながらも、想う誰かのために生きている人の手元だった。
その人の周りには、とても暖かい仲間がいて、自分を大事にしてくれた。
元気に生まれてきてほしい、と願われてきたことを思い出した。
生まれたい、と思った。
外を見てみたい、と改めて思った。
--------------------
冒頭のみ、10日夜に起こした問題行動から抜粋。
途中からは実はログ内では発言していないが、彼女の中ではきっとこんな感じでいろいろ渦巻いてた。
器に関しては提供者(もやしさん)のブログの記事も参考にしました。
知っても知らなくても大して影響のない範囲にとどめていますが。
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性別:
非公開
自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
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