Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。
カフェパ話。
錯覚に怯えて吠えた女の話は一つの終着点へ至った。
しかし、問題は作ろうと思えばいくらでも作れるのだ。少なくとも回答の数だけ。
錯覚に怯えて吠えた女の話は一つの終着点へ至った。
しかし、問題は作ろうと思えばいくらでも作れるのだ。少なくとも回答の数だけ。
----------
彼女と取引のあった組織が、安定を求めて彼女を切り捨てたように。
彼女と契約を交わした堕天使が、対価を求めて組織に抗ったように。
彼女と一緒に暮らした仲間が、救済を求めて堕天使と戦ったように。
彼女の旅立ちを知る1匹のポケモンが、彼女を知る者たちを訪ねて回り、あることを問いかけた。
真実を求めて。
「あの子はきっと優しすぎたのよ。本当はもっといろいろ言いたいこともあったけど、言ったら誰かが傷つくとでも思ったんでしょう」
ある民家の庭先。
涼しい木陰にしつらえたベンチに座り、質問者を隣に座らせて、その女は語る。
「誰も傷つけたくないからっていう理由で、何も言わないで抱え込んじゃって……何か隠してるってことがもうとっくにバレてて、言わないってこと自体が小さく人を傷つけてることには気づかなかったのね。昔から、自分のこととなると本当に鈍感なんだもん」
恋されてるのにも全然気づかなかったのよ。
そう言って女は笑う。
「結局は最初から誰も信用してなかった、ということではありませんか」
ある場所の地下室。
見るからに危険そうな薬品の調合を進めながら、そのポケモンは語る。
「自分の本心を打ち明けるに足る人物に心当たりがなかったから、本当の悩みを誰にも言い出せなかったのでしょう。人に話さなければ心の重荷は下りない上、解決策を伝授されることもありませんから、力任せに怒りを放出する他にやり方を知らなかった可能性は十分に考えられます」
だからここまで悪化したのでしょう。
そう言ってポケモンは薬瓶のふたを閉じる。
「もしかしたら、求めてる『幸せ』の形が他の人と違ったんじゃないかしら」
ある繁華街の一角。
黄昏時を前に店を開ける準備をしながら、その女は語る。
「例のブリーダーさん、自分がどれだけ恵まれてるかどうして分かってくれないんだ、って言ってたんですってね。アタシはその言葉の意味分かるわよ、自分の帰りを待っててくれる人がいるってどれほど幸せか。でもそれで心が動かなかったってことは、他にもっと欲しいものがあったんじゃないかしら?」
それはきっと入手困難な代物よ。
そう言って女は扉を開ける。
「あの人は他人に依存することを過度に恐れていたようです」
ある農場の一角。
井戸から水をくむ作業を質問者にも手伝わせながら、そのポケモンは語る。
「精神的に自立したいという前向きな動機ではなく、ただ、依存しているとみなされることを嫌がっていましたね。何でも自分でやれると思われたがっていた。その結果として、自分に厳しくしすぎたために、適度な加減というものを忘れたままここまで来てしまったのではないでしょうか」
人に頼ることが必ずしも依存になるとは限らないんですけどね。
そう言ってポケモンは水を入れた桶を運んでいく。
「あのカフェは彼女にとって我が子のような存在だったのかもしれません」
ある部屋の片隅。
テーブルに置かれたぬいぐるみの口を通して、その人物は語る。
「最初に私たちと対立したときのことを覚えていますか。耐震のために改装工事の必要があって、でもお金の工面が出来なかったから彼女は別の対価を支払う、つまり魔法という手段に手を出しました。カフェを維持するためならどんな手でも使う。その考えだけが極端に強くなった結果、あの日の暴走につながったのでしょう」
目的と手段がすり替わってしまったんですね。
そう言ってぬいぐるみは沈黙する。
「そういえばもう“人間”じゃなくなってるのよね」
ある場所へ向かう荷車の上。
道の起伏にあわせて体を揺らしながら、そのポケモンは語る。
「前に青石に願った時、体がドロドロに溶けて黒い塊になってるでしょ。その時点でもう元には戻れないって思ったんじゃない? だからあのとき『自分はもう死んだから』なんてことが言えたのよ。もしかしたら自分のことを、未練を抱えてさまよってる幽霊だとでも思ってるのかしら」
それにしちゃしっかり二本足で立ってるように見えるけど。
そう言ってポケモンは投げ出した足を引っ込める。
「優しくするだけなら演技でも出来る」
前出の民家の玄関先。
腰を下ろし、ロングブーツの靴紐を直しながら、その男は語る。
「問題はその中にどんな気持ちがこもってたかってことだ。自分の願望を押しのけてまで他人に尽くし続けるのが、本当にその人のためを思ってとは限らない。尽くすことを美徳としてそこに満足してるっていう可能性もあるんだ。案外考えられるぞ、充足感のために起こしてた行動だったって線も」
偽善者というよりは単に寂しい奴だな。
そう言って男は靴のかかとを鳴らす。
「本人はオレたちのことを全面的に信頼してたつもりだったんだ」
ある店の軒先。
扇風機の風を全身に浴びて涼みながら、そのポケモンは語る。
「そうじゃなきゃ仕込んでた裏切りネタにあんな絶望したりはしないだろ、せいぜいイラッとするくらいだ。今まで自分が信じてたものが大崩壊して、しかも一番近くにいたオレたちまで信用できないとなった、じゃあ誰を信じりゃいい。他に当てがなかったんだろうな。だから一人で突っ走った、と」
汚名返上のチャンスくらい欲しかったよなぁ。
そう言ってポケモンはリンゴをほおばる。
「思えばあの人はいつも何かを考えていたような気がします」
ある市場の大通り。
両手に持った野菜の品定めをしながら、その女は語る。
「仕事でも何でも、何かをしていないと落ち着かない。『何もしないで休む』ことに抵抗がある、悪いことのような気がすると言っていたような気がします。そのときは真面目な人なんだなーとしか思ってなかったんですが、考えてみたら不思議ですよね。どうして休憩が罪悪感につながるんでしょう?」
たまには休まないと倒れてしまうのに。
そう言って女は別の野菜を手に取る。
「欲しかったのは『愛情』じゃなくて『役割』だったんだ」
ある納屋の屋根上。
一雨来そうな夜の空を注意深く観察しながら、そのポケモンは語る。
「誰かに必要とされることが生き甲斐だった、っていうかな。その辺はお前だって知ってるだろ。露骨に『自分は用済みに違いない』って凹みまくったのは二度や三度じゃない。殴られた後に慰められることを知ってて言ったっていうよりは、本気でそれを不安に思ってたらしいぜ」
役に立つ自分でなきゃ愛されないとでも信じてたのかもな。
そう言ってポケモンは屋根から飛び降りる。
「あいつにとってカフェは逃げ場だった」
前出の部屋の真ん中。
質問者をソファに座らせ、自分はその向かいに腰を下ろして、その男は語る。
「嫌な現実から目をそらすための理想郷って奴だな。だから誰の支配も受けない、侵略占領などもってのほか、って気負ってたのかもしれない。俺はそう思ってる。心が壊れすぎて歯止めが利かなくなっただけが暴走の原因じゃない。居心地のいい場所を守ることが何より大事で、そこに執着してたからこそああなった」
つまり自分に厳しくなんかなかったってことだ。
そう言って男は清涼飲料水をあおる。
「いつだったか寝言で言ってたんだけど」
ある森の奥深く。
倒木の上に寝そべり、質問者を見上げる姿勢で、そのポケモンは語る。
「毎回引きこもるたびに人が訪ねてきたし、何度も説教されたけど、どうも本人は凄い違和感を持ってたみたいでさ。慰めの言葉なんかいらない、黙って側にいてくれればそれで良かったのに、だってさ。言いに行った側の立場も考えろよって感じだよな、自分だって人を励ましてきたんだから想像できるはずなのに」
それでいて起きてるときには何も言わないからな。
そう言ってポケモンは寝返りを打つ。
方々で集めた声を書き記したメモをもう一度読み直し、彼はため息をついた。
箇条書きされた文面は話し手の姿が薄れた無機質な言葉の羅列。直接会話していた時には何かを掴めそうだったのに、今はかえって分からないことばかりが増えている。
「……結局、どうしたかったんだろう……?」
彼は天井を仰ぐ。
こぼれ落ちた一言を書き留める者はいない。
----------
Illusion of Monsterの続き。
響音家を離れたために彼女視点での話を描けなくなったこと、居所を移すという一つの区切りを迎えたことを受けて、ここからは単発で進めようと思う。
トーストさん、いろいろご協力ありがとうございました。
関わり方は変わりますがどうか見捨てず、今後も彼らの日常にお付き合いいただけると幸いです。
彼女と取引のあった組織が、安定を求めて彼女を切り捨てたように。
彼女と契約を交わした堕天使が、対価を求めて組織に抗ったように。
彼女と一緒に暮らした仲間が、救済を求めて堕天使と戦ったように。
彼女の旅立ちを知る1匹のポケモンが、彼女を知る者たちを訪ねて回り、あることを問いかけた。
真実を求めて。
「あの子はきっと優しすぎたのよ。本当はもっといろいろ言いたいこともあったけど、言ったら誰かが傷つくとでも思ったんでしょう」
ある民家の庭先。
涼しい木陰にしつらえたベンチに座り、質問者を隣に座らせて、その女は語る。
「誰も傷つけたくないからっていう理由で、何も言わないで抱え込んじゃって……何か隠してるってことがもうとっくにバレてて、言わないってこと自体が小さく人を傷つけてることには気づかなかったのね。昔から、自分のこととなると本当に鈍感なんだもん」
恋されてるのにも全然気づかなかったのよ。
そう言って女は笑う。
「結局は最初から誰も信用してなかった、ということではありませんか」
ある場所の地下室。
見るからに危険そうな薬品の調合を進めながら、そのポケモンは語る。
「自分の本心を打ち明けるに足る人物に心当たりがなかったから、本当の悩みを誰にも言い出せなかったのでしょう。人に話さなければ心の重荷は下りない上、解決策を伝授されることもありませんから、力任せに怒りを放出する他にやり方を知らなかった可能性は十分に考えられます」
だからここまで悪化したのでしょう。
そう言ってポケモンは薬瓶のふたを閉じる。
「もしかしたら、求めてる『幸せ』の形が他の人と違ったんじゃないかしら」
ある繁華街の一角。
黄昏時を前に店を開ける準備をしながら、その女は語る。
「例のブリーダーさん、自分がどれだけ恵まれてるかどうして分かってくれないんだ、って言ってたんですってね。アタシはその言葉の意味分かるわよ、自分の帰りを待っててくれる人がいるってどれほど幸せか。でもそれで心が動かなかったってことは、他にもっと欲しいものがあったんじゃないかしら?」
それはきっと入手困難な代物よ。
そう言って女は扉を開ける。
「あの人は他人に依存することを過度に恐れていたようです」
ある農場の一角。
井戸から水をくむ作業を質問者にも手伝わせながら、そのポケモンは語る。
「精神的に自立したいという前向きな動機ではなく、ただ、依存しているとみなされることを嫌がっていましたね。何でも自分でやれると思われたがっていた。その結果として、自分に厳しくしすぎたために、適度な加減というものを忘れたままここまで来てしまったのではないでしょうか」
人に頼ることが必ずしも依存になるとは限らないんですけどね。
そう言ってポケモンは水を入れた桶を運んでいく。
「あのカフェは彼女にとって我が子のような存在だったのかもしれません」
ある部屋の片隅。
テーブルに置かれたぬいぐるみの口を通して、その人物は語る。
「最初に私たちと対立したときのことを覚えていますか。耐震のために改装工事の必要があって、でもお金の工面が出来なかったから彼女は別の対価を支払う、つまり魔法という手段に手を出しました。カフェを維持するためならどんな手でも使う。その考えだけが極端に強くなった結果、あの日の暴走につながったのでしょう」
目的と手段がすり替わってしまったんですね。
そう言ってぬいぐるみは沈黙する。
「そういえばもう“人間”じゃなくなってるのよね」
ある場所へ向かう荷車の上。
道の起伏にあわせて体を揺らしながら、そのポケモンは語る。
「前に青石に願った時、体がドロドロに溶けて黒い塊になってるでしょ。その時点でもう元には戻れないって思ったんじゃない? だからあのとき『自分はもう死んだから』なんてことが言えたのよ。もしかしたら自分のことを、未練を抱えてさまよってる幽霊だとでも思ってるのかしら」
それにしちゃしっかり二本足で立ってるように見えるけど。
そう言ってポケモンは投げ出した足を引っ込める。
「優しくするだけなら演技でも出来る」
前出の民家の玄関先。
腰を下ろし、ロングブーツの靴紐を直しながら、その男は語る。
「問題はその中にどんな気持ちがこもってたかってことだ。自分の願望を押しのけてまで他人に尽くし続けるのが、本当にその人のためを思ってとは限らない。尽くすことを美徳としてそこに満足してるっていう可能性もあるんだ。案外考えられるぞ、充足感のために起こしてた行動だったって線も」
偽善者というよりは単に寂しい奴だな。
そう言って男は靴のかかとを鳴らす。
「本人はオレたちのことを全面的に信頼してたつもりだったんだ」
ある店の軒先。
扇風機の風を全身に浴びて涼みながら、そのポケモンは語る。
「そうじゃなきゃ仕込んでた裏切りネタにあんな絶望したりはしないだろ、せいぜいイラッとするくらいだ。今まで自分が信じてたものが大崩壊して、しかも一番近くにいたオレたちまで信用できないとなった、じゃあ誰を信じりゃいい。他に当てがなかったんだろうな。だから一人で突っ走った、と」
汚名返上のチャンスくらい欲しかったよなぁ。
そう言ってポケモンはリンゴをほおばる。
「思えばあの人はいつも何かを考えていたような気がします」
ある市場の大通り。
両手に持った野菜の品定めをしながら、その女は語る。
「仕事でも何でも、何かをしていないと落ち着かない。『何もしないで休む』ことに抵抗がある、悪いことのような気がすると言っていたような気がします。そのときは真面目な人なんだなーとしか思ってなかったんですが、考えてみたら不思議ですよね。どうして休憩が罪悪感につながるんでしょう?」
たまには休まないと倒れてしまうのに。
そう言って女は別の野菜を手に取る。
「欲しかったのは『愛情』じゃなくて『役割』だったんだ」
ある納屋の屋根上。
一雨来そうな夜の空を注意深く観察しながら、そのポケモンは語る。
「誰かに必要とされることが生き甲斐だった、っていうかな。その辺はお前だって知ってるだろ。露骨に『自分は用済みに違いない』って凹みまくったのは二度や三度じゃない。殴られた後に慰められることを知ってて言ったっていうよりは、本気でそれを不安に思ってたらしいぜ」
役に立つ自分でなきゃ愛されないとでも信じてたのかもな。
そう言ってポケモンは屋根から飛び降りる。
「あいつにとってカフェは逃げ場だった」
前出の部屋の真ん中。
質問者をソファに座らせ、自分はその向かいに腰を下ろして、その男は語る。
「嫌な現実から目をそらすための理想郷って奴だな。だから誰の支配も受けない、侵略占領などもってのほか、って気負ってたのかもしれない。俺はそう思ってる。心が壊れすぎて歯止めが利かなくなっただけが暴走の原因じゃない。居心地のいい場所を守ることが何より大事で、そこに執着してたからこそああなった」
つまり自分に厳しくなんかなかったってことだ。
そう言って男は清涼飲料水をあおる。
「いつだったか寝言で言ってたんだけど」
ある森の奥深く。
倒木の上に寝そべり、質問者を見上げる姿勢で、そのポケモンは語る。
「毎回引きこもるたびに人が訪ねてきたし、何度も説教されたけど、どうも本人は凄い違和感を持ってたみたいでさ。慰めの言葉なんかいらない、黙って側にいてくれればそれで良かったのに、だってさ。言いに行った側の立場も考えろよって感じだよな、自分だって人を励ましてきたんだから想像できるはずなのに」
それでいて起きてるときには何も言わないからな。
そう言ってポケモンは寝返りを打つ。
方々で集めた声を書き記したメモをもう一度読み直し、彼はため息をついた。
箇条書きされた文面は話し手の姿が薄れた無機質な言葉の羅列。直接会話していた時には何かを掴めそうだったのに、今はかえって分からないことばかりが増えている。
「……結局、どうしたかったんだろう……?」
彼は天井を仰ぐ。
こぼれ落ちた一言を書き留める者はいない。
----------
Illusion of Monsterの続き。
響音家を離れたために彼女視点での話を描けなくなったこと、居所を移すという一つの区切りを迎えたことを受けて、ここからは単発で進めようと思う。
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Rista
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性別:
非公開
自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
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