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Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。


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続き。
盾に対して必ずしも矛で勝とうとする必要はない、と気づいた。

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 リスタは2夜連続で響音家の外へ出ていた。

――島で待ってます。

 琴牙の旅の話を聞いていた時、ふと思い出した言葉である。
 言われたのは響音家に引き渡された夜のことで、場所は確かカフェだったと思う。それは約束ともとれる宣言を伴っていた。

 さらに一ヶ月前の話。強く冷え込んだ四月初旬の夜、高熱に苦しんでいた彼女はせめて暖まろうと島の秘湯を密かに訪れたものの、それまでの路上生活で汚れきった手を温泉に入れるのをついためらってしまった。そこへ他の人たちが現れたので、彼女は話しかけられたくない一心でその場から逃げた(結局逃げた先で“親”に見つかってたしなめられたが)。
 そのとき後から来た中の、少なくとも2人はどうしてか隠れた先客の正体を見抜いていたらしい。どちらも琴牙が彼女を引き取る際その場に居合わせていて、1人は暴れる彼女を力ずくでなだめた。そしてもう1人は密かに伝言を残していた。
 また温泉を訪れたときのために、必要そうな道具を用意して置いてあるから、と。

 記憶をたどって宣言の全貌を思い出すと、それの真偽が妙に気になり始めた。
 嘘であることを証明したいのとは別の何かを胸に、彼女はこっそり家を飛び出していた。今思えばそれこそまさに「期待」だったのかもしれない。
 一日目は幸せそうなカップルの気配に怯えて即座に諦め逃げ出したが、「十分に探した」とはいえない状況に納得がいかず、翌日に改めて出直した。今度こそ温泉には誰もいなかったが、しかし探してみてもそれらしきものは見あたらなかった。
 やっぱり嘘か。
 何故か落胆している自分に気づいたとき、後ろから声をかけられた。背後を取られたことに驚いて振り返った瞬間、本当にかすかな、不思議な光を目にした。

 蒼い折り畳みの傘の下にある籠。
 中身は何枚かのタオル。

 気づくと、膝を折って座り込んでいて、しかも声を上げそうになるのをこらえながら泣いていた。
 どうしてそこで涙が流れたのかはよく分からないまま、さっき声をかけてきた少女に再び呼ばれ、どこかから運ばれてきた氷漬けの人を一緒に助けることになった。埋め合わせはするから、と言われたリスタが目的を達したことを理由に断ると、少女はこう言った。

『見つかったんですか?あ、だから嬉しすぎてさっき、泣いてたんですね。』

 誤解を解くための言葉より、愛情表現の説明より、千尋の谷への誘いより、
 その一言は素直に心の奥深くへと落ちた。

 確かに今ここに抱いている気持ちは、怒りや哀しみ、罠への警戒心とは明らかに何かが違っていた。何より、心が全く痛まない。
 言われた通りのものがまさか本当にあるとは思わなくて。
 それまで疑っていたことをも忘れてしまっていて。
 湧き起こる感情を表現する名前が自分の語彙の中にないことを知った彼女は思う。

『嬉し……かったの?私が?』

 氷漬けの被害者がある程度回復したのを見届けると、リスタは足早にその場を去った。これ以上何か言われると余計に苦しみそうな気がしたからだ。しばらく隠れ場所を求めた末、結局響音家に戻ってはきたが、朝が来て昼になっても部屋から出ることなく一人考え続けていた。
 その間、黒い涙はとめどなく頬を伝っていた。



 カントーのとある町に店を構える雑貨屋。
 訪れた一人の客が店番のアルビレオと立ち話をしている様子を、2匹のポケモンがカウンターの陰からうかがっている。客の手には布にくるまれた物体があり、話題の中心はそれであるらしい。
「……いつも通りですね」
「そう、いつも通りだぜ。元々ここはリスタがいなくても回せてたし、ぜーんぜん問題なし」
「それは良かったですけど……」
 プクリンのパフィーは長い耳をひくひく動かし、客と店員の会話を詳しく聞いてみようとした。客の持ち込みらしいその物体にどうも不穏な気配を感じたのだ。
「布の中身とかは気にしない方が身のためだぜ。それより、お前の用事があるのはこっちな」
 あっさり言い切ったナイツがパフィーの手を引っ張って店の奥に招き寄せた。在庫品を納めた段ボールが所狭しと積まれた廊下を抜け、急な階段を上った先にある一室へと案内する。
 そこは壁一面に本棚が敷き詰められた部屋だった。蔵書は本棚に収まりきらず床にも平積みにされている。
「これだよ。この箱」
 ナイツはその平積みに隠れるように置かれた箱を引っ張り出してきた。パフィーが口を開ければ入ってしまいそうなサイズの箱には飾り気も鍵もなく、一見しただけでは何が入っているのか全く分からなかった。
「リスタさんの私物……こ、これだけですか?」
「しょうがないだろ、状況が状況なんだから……」
 前年の秋、この2匹を含むポケモンたちとともにリスタが暮らしていた家は、他ならぬリスタ自身の手によって火がつけられ全焼した。きっかけも行動もあまりに唐突だったために着火の瞬間を止めることも家を守りきることも出来なかったが、ポケモンたちの尽力と統轄本部が寄越した応援のおかげで、なんとか各自の貴重品やカフェの「記録」などは外へ運び出され被害を免れた。
 その一つがこの箱である。それまでポケモンたちは存在すら知らなかったが、何故かサーリグが隠し場所を知っていて、自ら燃え広がる炎を食い止めながら持ち出しを指示してきた。しかし持ち主であるリスタ本人が程なく行方不明になったり囚われの身になったりしたこと、他の家族も例外なく引っ越しや生活の立て直しに追われたことにより、中身は長らく不明のままこの書斎に預けられていたのだった。
 火災から8ヶ月以上が過ぎた今。奇跡的にもリスタの“復活”に光明が差してきたという報告を受け、彼女の帰宅を受け入れる準備が始まった――今回この箱が日の目を見た理由の一つである。
「……でも、何が入ってるんでしょう」
「開けてみるか?」
 中身の無事は誰も保証していないし、半年以上にわたる放置が悪い影響を及ぼしていないとも限らない。2匹は顔を見合わせ、うなずきあってから静かに箱を開けた。

 無造作に突っ込まれた白いキャスケットを筆頭に、雑多な品物が入っていた。
 『商売繁盛』や『守』などと書かれた複数のお守り。
 他の物にもまれたのか、所々傷がついている吹き戻し。
 きれいに磨かれた天然石をつなぎ合わせたネックレス。
 不思議な力を感じる宝玉。
 誰かが描いたらしいリスタの似顔絵が入った、手作りの写真立て。

「これって……」
「……全部、オレたちやカフェの常連がリスタにプレゼントした奴じゃないか」
「そうなんですか? ……でも、確かにこのネックレスには見覚えがあります……」
 カフェの表の歴史に長く関わってきたナイツは、カフェの常連客が持ち寄った品々に。カフェが開店する頃には裏方へ引っ込んでいたパフィーは、自分たちがお金と知恵を出し合って作った贈り物に、それぞれ自らの記憶を重ねる。
 ほぼ同時に、2匹は箱自体が持つ意味も理解した。
「……思い出した。オレたちがあの家を建てたときに、」
「材木の余りを使って作った箱ですよね……」
 それもまた、彼女にとっては大切な、皆からの贈り物だったのだ。


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百の計略より一のアドリブを楽しむ場所。それがカフェパの原点である。

途中の会話は一部、ログから抜粋。後で許諾取ろう。
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自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。

ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
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