Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。
カフェパ話。
頑張って半日で書いてみた。次へ進むための一つの区切り。
頑張って半日で書いてみた。次へ進むための一つの区切り。
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あの日の夜、“あれ”の身に何が起きていたのか、その全貌は未だに分かっていない。
一つだけ確かなのは……その頭の中で何を考えていたのか、本当の気持ちはどこにあったのか、誰も気づけなかったこと。
故に悲劇は繰り返される。
祝日である木曜の朝、統轄本部は幹部未満も含む直属メンバー全員を、島の地下に隠された秘密基地へ緊急招集した。
集められた面々の多くは寝ぼけ眼のままで、特に早朝まで仕事だった葵はメイクの手直しも行き届いておらず、油断するとすぐにでも机に倒れ込みそうな有様だった。もちろん文句も出る。
だが、号令をかけた本部長だけは神妙な表情をしていた。
「突然呼び出して悪かったな。……いきなりだが本題に入りたい。昨日カフェでいろいろあって、“あれ”をよそへ預けることになりそうなんだ」
「えっ……?」
まず顔を上げたのはアルビレオ。つい先ほどまで当の怪物が暴れ出さないよう見張っていたが、珍しく彼も参加を求められたので、監視役は同じく集められたポケモンたちに交代している。
「このタイミングで? 一体どこへ」
「それなんだけどな」
マックスの表情は何故か硬い。それも“あれ”にではなく、別の何かを警戒しているように見えることに、他の列席者も次第に気づき出していた。
「引取先は響音邸。今日の夜に琴牙と会わせて、異論が出なければそのまま引き取ってもらう手はずになってる」
会議室が水を打ったように静まりかえった。
「ヒビキネ……コトガ……?」
数秒後に誰かが名前を反復し、それを合図に一転してざわつきが場を支配する。
「本当? え、だってこういう深刻な問題には完全に無縁な人だよね?」
「興味も関心も無いはずだ。これまでの事件にも一切関与していない」
「誰だっけ?」
「確かマックスさんの毛皮を妙に気に入って、いつも抱きつきに来る人……」
「あー、噂のエリーちゃん2号か」
「何よ2号って! あっちの方がよっぽどだって聞いたわよ!?」
「落ち着け、こんな場所で喧嘩してる場合か」
「……響音邸。世界座標9181、シオンタウンの南西に位置する自宅兼ポケモン研究所」
「ソこで座標引っ張り出スってコとは、別の世界?」
「そうなります。バケモノの影響下にないことも確かです」
「でも、どうしてそんなことに……」
「今説明する、静かにしてくれ」
つぶやきの群れを吹き飛ばした声には、どこか諦めにも似た疲れが漂っていた。
全員の注目が上座に集まる。
「引き取って面倒を見るっていうのは向こうからの打診だ。四六時中交替で見張ってるから休みを取れないって話をしたら、『うちに来ればいい』って言い出した。多分本気だ」
「ねぇ……現状はどこまで知ってるの?」
メープルが挙手した。彼女は“あれ”に関する作戦から長らく遠ざけられていたが、戦力外となったマックスの指名で数日前から加わっていた。有事への警戒の他、女性ということもあって身の回りの世話も行っている。
「俺やアルやシイナから話の断片を聞いた程度で、どう危険なのはおそらく理解してない。何を言っても平和的な解釈しかしないから説明したところでどうせ通じないだろ」
「そ、そんな……」
「そいつはカフェの常連なんだろ? “あれ”と島の関係くらいは知ってるんだろうな?」
うろたえるツインテールに続いてアークが口を開く。緑髪の男は作戦メンバーではないが、今回はとある外部協力者の代理という形で出席している。
この質問にもマックスは首を横へ振った。
「まず“あれ”の正体を知らない、っつか名前を聞いても反応しないの見ると多分存在自体を忘れてる。ついでに俺のこともただの配達員としか思ってない」
「……つまり、本当に何も知らないのか……」
ため息が天井に向けて放たれた。
「本人はそういうこと気にしてないんだろうね」
朱月が言葉を継いだ。ある理由から島を離れられない彼は、ハクタイで行う普段の会議は代理を立てているが、今回は問題なく自ら出席を果たした。
「困ってる人がいる、苦しんでる人がいる。だからほっとけない。……きっと、それだけの理由で動いてるんだよ」
「でも、暴れるんでしょ? 怪我とかさせたら大変じゃない?」
是非よりも心配を口にしたのはエリーだ。葵もこれに同調する。
その隣で、ニーナは隣室を隔てる壁を見ながら呟いた。
「響音さんのお家って、確か前にヒロくんが遊びに行きませんでした……?」
「周りがみんな明るすぎて胸焼けがする、って言ってた気がする」
サーリグの隣に座るシイナが腕組みをする。その視線はニーナと同じ方向にあって、その先にいるはずの親友を案じていた。
「ヒロさんがその調子となると、他人を一切受け入れない彼女にはなおさら耐えられないのではないでしょうか」
魔術師の弟子がもっともな疑問を口にする。
「そこなんだよ……」
これにはマックスも反論できなかった。
すべてを崩壊させた事件以来、統轄本部が今まで“あれ”に対して取ってきた立場がある。
「彼女個人の幸福より島全体の安全、世界間のバランスを優先。島に害をもたらす存在となるなら排除する。誰もやらないなら自分たちでやるまでだ」
それを元に彼らは戦ってきた。
処刑宣告までも行った。
カフェの常連客に反対されても、あくまで、脅威を封じ込めることを重視した。
固執していた、というのかもしれない。
すべてをポジティブにとらえる響音家の姿勢はこれと完全に異なる。
「悲しみからは狂気も憎しみも生まれることもある。そんな人たちも迎え入れ、心を晴らすのもシオンの役割なんや」
そうして何事も受け入れる。
優しくする。
愛情を注ぐ。
過剰とも言えるスキンシップはカフェでも見ているが、あれが彼らの日常だという。
最悪の結末をもたらす可能性は十分にあった。響音家にとっても、“あれ”にとっても。
それを理由に断ろうという意見は誰もが思い浮かべたが、しかし誰も口にしなかった。
手札を使い果たした彼らは、細い糸でもすがりたくなるほどに疲弊し、追い詰められていたのだ。
「とりあえず今夜、反応を見る。あっちがもたないだろうと考えたら引き上げて再封印だ」
戦いの爪痕は時を超え、場所を変えても、人を苛み続ける――今、この時も。
「ところで本部長。彼女の心配ももちろんおありでしょうが、もしかして今回の件を理由に彼らが更なるスキンシップを求めてくることも恐れていませんか?」
「……何故分かった?」
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爪痕シリーズ完結編。
前回までは登場人物を分散させていろんな場面を書いてみました。
昔ポケモンカフェで書かせていただいた連作の形式を思い出してみたので。
それにしても昔に比べて遅筆になったと思う。
というかトーストさん早すぎるよ……
あの日の夜、“あれ”の身に何が起きていたのか、その全貌は未だに分かっていない。
一つだけ確かなのは……その頭の中で何を考えていたのか、本当の気持ちはどこにあったのか、誰も気づけなかったこと。
故に悲劇は繰り返される。
祝日である木曜の朝、統轄本部は幹部未満も含む直属メンバー全員を、島の地下に隠された秘密基地へ緊急招集した。
集められた面々の多くは寝ぼけ眼のままで、特に早朝まで仕事だった葵はメイクの手直しも行き届いておらず、油断するとすぐにでも机に倒れ込みそうな有様だった。もちろん文句も出る。
だが、号令をかけた本部長だけは神妙な表情をしていた。
「突然呼び出して悪かったな。……いきなりだが本題に入りたい。昨日カフェでいろいろあって、“あれ”をよそへ預けることになりそうなんだ」
「えっ……?」
まず顔を上げたのはアルビレオ。つい先ほどまで当の怪物が暴れ出さないよう見張っていたが、珍しく彼も参加を求められたので、監視役は同じく集められたポケモンたちに交代している。
「このタイミングで? 一体どこへ」
「それなんだけどな」
マックスの表情は何故か硬い。それも“あれ”にではなく、別の何かを警戒しているように見えることに、他の列席者も次第に気づき出していた。
「引取先は響音邸。今日の夜に琴牙と会わせて、異論が出なければそのまま引き取ってもらう手はずになってる」
会議室が水を打ったように静まりかえった。
「ヒビキネ……コトガ……?」
数秒後に誰かが名前を反復し、それを合図に一転してざわつきが場を支配する。
「本当? え、だってこういう深刻な問題には完全に無縁な人だよね?」
「興味も関心も無いはずだ。これまでの事件にも一切関与していない」
「誰だっけ?」
「確かマックスさんの毛皮を妙に気に入って、いつも抱きつきに来る人……」
「あー、噂のエリーちゃん2号か」
「何よ2号って! あっちの方がよっぽどだって聞いたわよ!?」
「落ち着け、こんな場所で喧嘩してる場合か」
「……響音邸。世界座標9181、シオンタウンの南西に位置する自宅兼ポケモン研究所」
「ソこで座標引っ張り出スってコとは、別の世界?」
「そうなります。バケモノの影響下にないことも確かです」
「でも、どうしてそんなことに……」
「今説明する、静かにしてくれ」
つぶやきの群れを吹き飛ばした声には、どこか諦めにも似た疲れが漂っていた。
全員の注目が上座に集まる。
「引き取って面倒を見るっていうのは向こうからの打診だ。四六時中交替で見張ってるから休みを取れないって話をしたら、『うちに来ればいい』って言い出した。多分本気だ」
「ねぇ……現状はどこまで知ってるの?」
メープルが挙手した。彼女は“あれ”に関する作戦から長らく遠ざけられていたが、戦力外となったマックスの指名で数日前から加わっていた。有事への警戒の他、女性ということもあって身の回りの世話も行っている。
「俺やアルやシイナから話の断片を聞いた程度で、どう危険なのはおそらく理解してない。何を言っても平和的な解釈しかしないから説明したところでどうせ通じないだろ」
「そ、そんな……」
「そいつはカフェの常連なんだろ? “あれ”と島の関係くらいは知ってるんだろうな?」
うろたえるツインテールに続いてアークが口を開く。緑髪の男は作戦メンバーではないが、今回はとある外部協力者の代理という形で出席している。
この質問にもマックスは首を横へ振った。
「まず“あれ”の正体を知らない、っつか名前を聞いても反応しないの見ると多分存在自体を忘れてる。ついでに俺のこともただの配達員としか思ってない」
「……つまり、本当に何も知らないのか……」
ため息が天井に向けて放たれた。
「本人はそういうこと気にしてないんだろうね」
朱月が言葉を継いだ。ある理由から島を離れられない彼は、ハクタイで行う普段の会議は代理を立てているが、今回は問題なく自ら出席を果たした。
「困ってる人がいる、苦しんでる人がいる。だからほっとけない。……きっと、それだけの理由で動いてるんだよ」
「でも、暴れるんでしょ? 怪我とかさせたら大変じゃない?」
是非よりも心配を口にしたのはエリーだ。葵もこれに同調する。
その隣で、ニーナは隣室を隔てる壁を見ながら呟いた。
「響音さんのお家って、確か前にヒロくんが遊びに行きませんでした……?」
「周りがみんな明るすぎて胸焼けがする、って言ってた気がする」
サーリグの隣に座るシイナが腕組みをする。その視線はニーナと同じ方向にあって、その先にいるはずの親友を案じていた。
「ヒロさんがその調子となると、他人を一切受け入れない彼女にはなおさら耐えられないのではないでしょうか」
魔術師の弟子がもっともな疑問を口にする。
「そこなんだよ……」
これにはマックスも反論できなかった。
すべてを崩壊させた事件以来、統轄本部が今まで“あれ”に対して取ってきた立場がある。
「彼女個人の幸福より島全体の安全、世界間のバランスを優先。島に害をもたらす存在となるなら排除する。誰もやらないなら自分たちでやるまでだ」
それを元に彼らは戦ってきた。
処刑宣告までも行った。
カフェの常連客に反対されても、あくまで、脅威を封じ込めることを重視した。
固執していた、というのかもしれない。
すべてをポジティブにとらえる響音家の姿勢はこれと完全に異なる。
「悲しみからは狂気も憎しみも生まれることもある。そんな人たちも迎え入れ、心を晴らすのもシオンの役割なんや」
そうして何事も受け入れる。
優しくする。
愛情を注ぐ。
過剰とも言えるスキンシップはカフェでも見ているが、あれが彼らの日常だという。
最悪の結末をもたらす可能性は十分にあった。響音家にとっても、“あれ”にとっても。
それを理由に断ろうという意見は誰もが思い浮かべたが、しかし誰も口にしなかった。
手札を使い果たした彼らは、細い糸でもすがりたくなるほどに疲弊し、追い詰められていたのだ。
「とりあえず今夜、反応を見る。あっちがもたないだろうと考えたら引き上げて再封印だ」
戦いの爪痕は時を超え、場所を変えても、人を苛み続ける――今、この時も。
「ところで本部長。彼女の心配ももちろんおありでしょうが、もしかして今回の件を理由に彼らが更なるスキンシップを求めてくることも恐れていませんか?」
「……何故分かった?」
----------
爪痕シリーズ完結編。
前回までは登場人物を分散させていろんな場面を書いてみました。
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HN:
Rista
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
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