Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。
カフェパ話。
22日の撤収後。負けるべくして負けたバトルの、ささやかな後日談。
22日の撤収後。負けるべくして負けたバトルの、ささやかな後日談。
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包帯だらけの脇腹を細い手が撫でる。
「ひっどいことするのねえ。おー、かわいそうに。よしよし」
そのまま背中から首周り、頭へと滑らせて。
「やっぱりあの時私が引き取れば良かったのよ。そうすればこんな目には遭わなかったのに。今からでも本部長にお願いしようかしら」
「あの、葵さん……そろそろ、包帯、換えたいんですけど……」
「あら失礼」
弱々しい声を背後に受け、ようやく葵は手を止めた。
前屈みになっていた背筋を伸ばす。さすがにシンオウの冬場は厳しいのか厚手の上着を着てはいたが、それでも体のラインははっきり見せて、胸元も開けている。会話の相手、女性であるはずのニーナが視線のやり場に一瞬迷う程度には。
「でも本当にどうするの? これ完全に虐待よ。ポケモン愛護協会あたりが聞きつけたら血相変えてすっ飛んでくるんじゃないかしら」
「……ですよねぇ……」
顔文字をつけるなら「;」が3つも4つもついてきそうな口調で、ニーナは曖昧に微笑んだ。
会話の当事者は。
包帯だらけで傷薬の匂いを漂わせるアリアドスは、最初から今まで完全に沈黙を通している。
バトルで怪我をしたと聞いてはるばるカントーからシンオウへ飛んできた昆虫マニア(フライゴンの背に乗って本当に“飛んで”きたのだ)を前にしても、ことのあらましを聞いた彼女に全身をべたべた触られても、しゃべらないどころか微動だにしない。
「相手、クロバットだっけ?」
「ゴルバットです」
「どっちだっていいじゃない。不利なのに代わりはないんだから。素早さだって負けてるし飛行タイプの技使ってくるに決まってるのに、どうしてわざわざバトルに出したんだか」
「それはそうなんですけど……」
そういえばその対戦相手は今どうしているんだろう、とニーナは思う。確かアリアドスの主の言動にお怒りのようだったとシイナから聞いたが、そのうち気にしなくなるだろうか。
当然答えなど出ないまま、古い包帯をほどいていく。彼女の本業は機械技師だが、同じチームに属するポケモンたちがバトルやら特訓やらで生傷の絶えない生活をしていたために、ある程度までの傷の治療にはすっかり慣れていた。同じく暮らしの中で覚えていった家事全般とは違い、本を頼りに覚えたので自己流の適当さはない。
「……でも、リアラさんなりに、頑張ってたんだと思います」
「どうして」
「サーリグさんはわざと指示を出さなかったみたいですけど、それでも一生懸命戦おうとしてたそうです。こう……動きが遅いなりに、必死に」
新しい包帯が丁寧に巻かれていく。
「そうそう、リアラさん、少しずつ変わってきたんですよ」
「どんな風に?」
「最近気づいたんですけど、歩き方が前より自然になった気がするんです。前はロボットみたいな、本当にぎこちない動きしかできなかったのに」
ニーナが少し身を乗り出し、後ろ足に手を伸ばす。
彼女の灰色の髪が両目に触れそうになったのに、当のリアラは怯むどころか、まばたき一つしなかった。
不気味だ。
虫ポケモンを愛してやまない葵でさえ、かつて誰かが言ったその言葉の意味を理解してしまったような錯覚を覚えた。この哀れなポケモンが空虚な目をした抜け殻になってしまったいきさつは知っているが、いくら予備知識があっても目の前にしたときの印象までは変えられない。
人形のような。
ロボットのような。
そう、まるで……
「……ねえ」
葵は出かかった一言を喉の奥にとどめ、別の言葉に交代させた。
「ニーナちゃん。今度私のお店に遊びに来ない?」
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過去は歴史を織り上げる糸で、現在は未来を染める染料。
間違った色がついてしまっても、もう元には戻せない。
包帯だらけの脇腹を細い手が撫でる。
「ひっどいことするのねえ。おー、かわいそうに。よしよし」
そのまま背中から首周り、頭へと滑らせて。
「やっぱりあの時私が引き取れば良かったのよ。そうすればこんな目には遭わなかったのに。今からでも本部長にお願いしようかしら」
「あの、葵さん……そろそろ、包帯、換えたいんですけど……」
「あら失礼」
弱々しい声を背後に受け、ようやく葵は手を止めた。
前屈みになっていた背筋を伸ばす。さすがにシンオウの冬場は厳しいのか厚手の上着を着てはいたが、それでも体のラインははっきり見せて、胸元も開けている。会話の相手、女性であるはずのニーナが視線のやり場に一瞬迷う程度には。
「でも本当にどうするの? これ完全に虐待よ。ポケモン愛護協会あたりが聞きつけたら血相変えてすっ飛んでくるんじゃないかしら」
「……ですよねぇ……」
顔文字をつけるなら「;」が3つも4つもついてきそうな口調で、ニーナは曖昧に微笑んだ。
会話の当事者は。
包帯だらけで傷薬の匂いを漂わせるアリアドスは、最初から今まで完全に沈黙を通している。
バトルで怪我をしたと聞いてはるばるカントーからシンオウへ飛んできた昆虫マニア(フライゴンの背に乗って本当に“飛んで”きたのだ)を前にしても、ことのあらましを聞いた彼女に全身をべたべた触られても、しゃべらないどころか微動だにしない。
「相手、クロバットだっけ?」
「ゴルバットです」
「どっちだっていいじゃない。不利なのに代わりはないんだから。素早さだって負けてるし飛行タイプの技使ってくるに決まってるのに、どうしてわざわざバトルに出したんだか」
「それはそうなんですけど……」
そういえばその対戦相手は今どうしているんだろう、とニーナは思う。確かアリアドスの主の言動にお怒りのようだったとシイナから聞いたが、そのうち気にしなくなるだろうか。
当然答えなど出ないまま、古い包帯をほどいていく。彼女の本業は機械技師だが、同じチームに属するポケモンたちがバトルやら特訓やらで生傷の絶えない生活をしていたために、ある程度までの傷の治療にはすっかり慣れていた。同じく暮らしの中で覚えていった家事全般とは違い、本を頼りに覚えたので自己流の適当さはない。
「……でも、リアラさんなりに、頑張ってたんだと思います」
「どうして」
「サーリグさんはわざと指示を出さなかったみたいですけど、それでも一生懸命戦おうとしてたそうです。こう……動きが遅いなりに、必死に」
新しい包帯が丁寧に巻かれていく。
「そうそう、リアラさん、少しずつ変わってきたんですよ」
「どんな風に?」
「最近気づいたんですけど、歩き方が前より自然になった気がするんです。前はロボットみたいな、本当にぎこちない動きしかできなかったのに」
ニーナが少し身を乗り出し、後ろ足に手を伸ばす。
彼女の灰色の髪が両目に触れそうになったのに、当のリアラは怯むどころか、まばたき一つしなかった。
不気味だ。
虫ポケモンを愛してやまない葵でさえ、かつて誰かが言ったその言葉の意味を理解してしまったような錯覚を覚えた。この哀れなポケモンが空虚な目をした抜け殻になってしまったいきさつは知っているが、いくら予備知識があっても目の前にしたときの印象までは変えられない。
人形のような。
ロボットのような。
そう、まるで……
「……ねえ」
葵は出かかった一言を喉の奥にとどめ、別の言葉に交代させた。
「ニーナちゃん。今度私のお店に遊びに来ない?」
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過去は歴史を織り上げる糸で、現在は未来を染める染料。
間違った色がついてしまっても、もう元には戻せない。
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非公開
自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
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