Party Syndromeの現場に踊る足跡の記録。
事態は順調に悪い方向へ進んでいる。
カフェパ話。
カフェパ話。
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病院の関係者がその訪問者を目撃したとき、例外なく、頭の片隅によぎったことが二つあった。
服を着せられているくらいだからおそらく誰かのポケモンなのだろう、という推測。
そしてその服のセンスから連想される、ある患者の顔あるいは名前、あるいは噂。
「あ、来てたんだ」
黒い帽子をかぶったカラカラが静かにドアを開けたとき、個室の主はベッドの上に横たわっていた。目は覚ましていたらしく、引き戸の音に反応するように首だけ動かして、訪問者の顔を見る。
窓越しの日差しが逆光になって表情はよく見えない。
「たった今到着したところです」
カラカラはドアを閉めながら律儀に答えた。
「何か面白そうなことはあった?」
「カフェで節分豆を配っていました。もちろん師匠の分もいただいてきました、こちらへ置いておきます」
「そうだよ、昨日は節分だったんだよ」
首を動かさず、眼球だけを無理矢理動かして、彼女のトレーナーは窓の方を見ようとする。枕元に添えられた土産の袋は見ようとせず、ゆっくり動かした右手で触れることでその存在を確かめた。
彼は珍しく素顔を外気にさらしていた。普段人前では(たとえ弟子の前でも)決して外さないはずの白い仮面は今、お気に入りのとんがり帽子と一緒にサイドテーブルの端に飾られている。
「昼間にさあ、外で誰かが豆まきしてたんだよね。声がここまで聞こえてきてさぁ……いいなあ、ボクも外に出たいなあ。出たいなあ」
「下手に抵抗せずおとなしくしていれば、その分傷の治りは早まるのではありませんか」
いい大人と言われる年なのに、子供のようにごねてみせる。彼にとってはいつものことだった。弟子も対応には慣れている。
「……ところで、師匠。魔法は使っていませんね?」
その個室は病棟の最奥にあった。
看護師と往診の医者、たまに来る見舞客を除けば、足音が近づいてくることはない。夜間であれば病院の職員さえもその部屋の近くは通らないはずで、よってたとえ入院中の患者が夜な夜な怪しい儀式を執り行っていたとしても、おそらく気づかれることはないはずだった。
それでも念を押したのにはもちろん理由がある。
「分かってる、使ってないよ。……不自然に治りが早くなって怪しまれると困る。ついでに魔法の痕跡を変なのに見つかったら困る。でしょ?」
「その通りです。そもそも今回のようなことになったのも師匠の軽率な行動が原因なのですから、そのことを肝に銘じて今日もおとなしくしていてくださいね」
「はいはい……」
カラカラは改めて、トレーナーの顔をまじまじと見つめた。
ひ弱でどこか頼りなさそうな顔つきは肌の青白さも相まって余計に貧弱に見える。ベッドでおとなしくしている日数に比例して無精髭が伸びていたが、それには彼を年相応に見せる力はなかった。
しかし、数日前まで生死の境をさまよっていたようには思えない元気さも、その表情からは見て取れた。
本来、彼――ラキスはこの病院に収容される予定ではなかった。
そもそも病院が建っている国の、いや、その世界の住人ではないのだ。
数日前、統轄本部と呼ばれる“チーム”の主要メンバーが顔を揃える定例会議が終了した直後、ふっとよそ見をした彼が窓の外に何かを見つけたのが悲劇の始まりだった。
それが罠だとも知らず一人屋外へ出て行った彼は、真夜中の暗闇の中で「それ」と出会い、数分のうちに討ち取られた。鋭利な刃物による全くためらいのない傷が胸に一つ刻まれて――後で明かされた話では、彼が習慣として懐に仕込んでいた魔法道具がなければ、その一撃は恐らく心臓を貫通していたという。これが唯一、不幸中の幸い。
他には何一ついいことがなかった。まず、会議に同席した仲間が誰一人として戦闘の発生に気づかなかったこと。元々勝手な行動を取る彼を放置しているメンバーはともかく、危険察知能力に最も優れているはずの京が、至近距離で起きた襲撃を見逃していたのだ。
彼女が事態に気づいたのは決着がついた後。そのとき彼は血を流して外の街路に倒れており、しかも仲間が駆けつける前に偶然そこを通りかかった警官に発見され、救急車を呼ばれてしまった。通報記録が残ってしまった以上、サーリグの邪視で警官の記憶をもみ消すわけにもいかない。やむなく彼らは保険証どころかちゃんとした身分証明もない魔術師を一般の総合病院へ引き渡し、治療を任せることとなった。
数時間に及ぶ緊急手術と後処理がすべて終わった後、彼はもちろんチームメイトのほぼ全員が警察の取り調べを受けたことは言うまでもない。この時点で仲間たちは襲撃してきた人物の正体をおおよそ察していたが、被害者の身元同様、口裏を合わせて事実を伏せた。(この伏せ方を本人が聞かされなかったために、後にまた別のトラブルが起きることになるのだが。)
ちなみに京は被害者が外へ出た直後に姿を消したと主張しているが、事件当時彼は得意のテレポートを一度も使わなかったことが後で分かっている。彼が、あるいは襲撃者がどうやって千里眼の目を欺いたのか、その手口は未だに分かっていない。
全貌が明かされるのはまだ先。
警察の一員が隠された闇の一端を掴むのは、もっと先のことになる……はずだ。
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TOEIC受験が終わって、他のこともいろいろ一段落したので、そろそろ書くことのリハビリを始めたい。
問題は他にもやることがいっぱいあって、なかなか下書きの時間がとれないこと。
だからだろう、後半はまとまりがなくなった。反省。
病院の関係者がその訪問者を目撃したとき、例外なく、頭の片隅によぎったことが二つあった。
服を着せられているくらいだからおそらく誰かのポケモンなのだろう、という推測。
そしてその服のセンスから連想される、ある患者の顔あるいは名前、あるいは噂。
「あ、来てたんだ」
黒い帽子をかぶったカラカラが静かにドアを開けたとき、個室の主はベッドの上に横たわっていた。目は覚ましていたらしく、引き戸の音に反応するように首だけ動かして、訪問者の顔を見る。
窓越しの日差しが逆光になって表情はよく見えない。
「たった今到着したところです」
カラカラはドアを閉めながら律儀に答えた。
「何か面白そうなことはあった?」
「カフェで節分豆を配っていました。もちろん師匠の分もいただいてきました、こちらへ置いておきます」
「そうだよ、昨日は節分だったんだよ」
首を動かさず、眼球だけを無理矢理動かして、彼女のトレーナーは窓の方を見ようとする。枕元に添えられた土産の袋は見ようとせず、ゆっくり動かした右手で触れることでその存在を確かめた。
彼は珍しく素顔を外気にさらしていた。普段人前では(たとえ弟子の前でも)決して外さないはずの白い仮面は今、お気に入りのとんがり帽子と一緒にサイドテーブルの端に飾られている。
「昼間にさあ、外で誰かが豆まきしてたんだよね。声がここまで聞こえてきてさぁ……いいなあ、ボクも外に出たいなあ。出たいなあ」
「下手に抵抗せずおとなしくしていれば、その分傷の治りは早まるのではありませんか」
いい大人と言われる年なのに、子供のようにごねてみせる。彼にとってはいつものことだった。弟子も対応には慣れている。
「……ところで、師匠。魔法は使っていませんね?」
その個室は病棟の最奥にあった。
看護師と往診の医者、たまに来る見舞客を除けば、足音が近づいてくることはない。夜間であれば病院の職員さえもその部屋の近くは通らないはずで、よってたとえ入院中の患者が夜な夜な怪しい儀式を執り行っていたとしても、おそらく気づかれることはないはずだった。
それでも念を押したのにはもちろん理由がある。
「分かってる、使ってないよ。……不自然に治りが早くなって怪しまれると困る。ついでに魔法の痕跡を変なのに見つかったら困る。でしょ?」
「その通りです。そもそも今回のようなことになったのも師匠の軽率な行動が原因なのですから、そのことを肝に銘じて今日もおとなしくしていてくださいね」
「はいはい……」
カラカラは改めて、トレーナーの顔をまじまじと見つめた。
ひ弱でどこか頼りなさそうな顔つきは肌の青白さも相まって余計に貧弱に見える。ベッドでおとなしくしている日数に比例して無精髭が伸びていたが、それには彼を年相応に見せる力はなかった。
しかし、数日前まで生死の境をさまよっていたようには思えない元気さも、その表情からは見て取れた。
本来、彼――ラキスはこの病院に収容される予定ではなかった。
そもそも病院が建っている国の、いや、その世界の住人ではないのだ。
数日前、統轄本部と呼ばれる“チーム”の主要メンバーが顔を揃える定例会議が終了した直後、ふっとよそ見をした彼が窓の外に何かを見つけたのが悲劇の始まりだった。
それが罠だとも知らず一人屋外へ出て行った彼は、真夜中の暗闇の中で「それ」と出会い、数分のうちに討ち取られた。鋭利な刃物による全くためらいのない傷が胸に一つ刻まれて――後で明かされた話では、彼が習慣として懐に仕込んでいた魔法道具がなければ、その一撃は恐らく心臓を貫通していたという。これが唯一、不幸中の幸い。
他には何一ついいことがなかった。まず、会議に同席した仲間が誰一人として戦闘の発生に気づかなかったこと。元々勝手な行動を取る彼を放置しているメンバーはともかく、危険察知能力に最も優れているはずの京が、至近距離で起きた襲撃を見逃していたのだ。
彼女が事態に気づいたのは決着がついた後。そのとき彼は血を流して外の街路に倒れており、しかも仲間が駆けつける前に偶然そこを通りかかった警官に発見され、救急車を呼ばれてしまった。通報記録が残ってしまった以上、サーリグの邪視で警官の記憶をもみ消すわけにもいかない。やむなく彼らは保険証どころかちゃんとした身分証明もない魔術師を一般の総合病院へ引き渡し、治療を任せることとなった。
数時間に及ぶ緊急手術と後処理がすべて終わった後、彼はもちろんチームメイトのほぼ全員が警察の取り調べを受けたことは言うまでもない。この時点で仲間たちは襲撃してきた人物の正体をおおよそ察していたが、被害者の身元同様、口裏を合わせて事実を伏せた。(この伏せ方を本人が聞かされなかったために、後にまた別のトラブルが起きることになるのだが。)
ちなみに京は被害者が外へ出た直後に姿を消したと主張しているが、事件当時彼は得意のテレポートを一度も使わなかったことが後で分かっている。彼が、あるいは襲撃者がどうやって千里眼の目を欺いたのか、その手口は未だに分かっていない。
全貌が明かされるのはまだ先。
警察の一員が隠された闇の一端を掴むのは、もっと先のことになる……はずだ。
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TOEIC受験が終わって、他のこともいろいろ一段落したので、そろそろ書くことのリハビリを始めたい。
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プロフィール
HN:
Rista
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
化屋月華堂(親サイト)&カフェ「パーティ」(子サイト)管理人。今のところ活動は後者の方が活発。
一応今は社会人なので控えめに動いてるつもりだが、その割に子供じみた言動も多々ある。自覚あり。
ちなみにブログ名は“カフェパにのめり込んで離れられなくなった人”を指す造語に由来。
あなたは大丈夫ですか?
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