「光る玉」

Twitter300字SS 第七十九回参加作品

お題「残る」
ジャンル：オリジナル、日常、とある平凡な令和の話
注意書き：特になし

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「いつまでゲームしてるの」
「残機ゼロになるまで」
　母親みたいなこと言う私も私だけど、気づかない彼も彼だ。
　テレビに映るのは無数の光る玉。夜景に花火に流れ星、「一緒に見に行こう」と誘ったけど、いつも反応薄かった。ゲームにはずっと夢中なのに。私の部屋に転がり込んだのも大画面テレビ目当てで間違いなさそう。
　悔しいというより情けない。何も分かっていないことが。
「ねえねえ」
「邪魔するな、ミスしたって責任とれないだろ」
「とるよ」
　抑えた声で言い返した。
「配信だっけ、やりたいんでしょ。動画なら撮るよ」
「それ話したことあった？」
　画面の中で爆発が起きた。
　小さなミスから急に焦り出す君の様子は、昨夜の寝言にそっくりだった。

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字下げと改行を除いて300文字。

残念な居候と小さな心残りの話。
人気者を夢見るだけではいられなくなって一歩踏み出した、その時点で踏み出さない人たちよりは……だけど、何か振り落としていませんか？

シューティングゲームといっても上から来るやつ、右から来るやつ、直線的パターンから芸術的弾幕までいろんなパターンがあります。
どれにしようかなと悩みましたが、結局特定しない形にしました。

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「ハローハロー」/「流星の値打ち」

Twitter300字SS 第七十八回参加作品

お題「波」
ジャンル：(1)オリジナル、とある普通の世界の話
　　　　　(2)オリジナル/一次創作シリーズ、とある不穏な近未来世界の話
注意書き：特になし

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「ハロー、ハロー」
　天気予報を見ていた幼い娘がテレビに手を振った。僕が見に行ったときにはもう次のニュースが始まっていて、何に反応したのかは分からない。
　データ放送のボタンを押すと「波浪警報」の赤いアイコンが表示された。
　今夜、大型の台風が激しい波を連れてこの港町へ向かってくる。
「こっちへいらっしゃい」
　新聞を広げていた親父が娘に手招きした。子ども向けの連載漫画で気を引こうとしたようだけど、娘はその下の天気図に目をつけた。床に落ちていたボールペンを握って、ぐりぐり。
「なんだい、それは」
「ハロー！」
　予報円に落書きしてスマイルマークにしても、台風の威力は弱まってくれない。だけど茶の間の空気は少しだけ晴れた。

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　流れ星が落ちた町で、商店の主から破片の買い取りを打診された。藍の買い物を見て金があると確信したらしい。
　実物を見たいと答えると、落下地点のクレーターから離れた洞窟に案内された。焦げた金属の塊が隠されていた。
「役人は金を払わないからな」
「だから勝手に持ち出したの？」
　藍が文句を言う間に近づき、読み取れた文字列に身震いした。
　これはある宇宙望遠鏡の残骸。かつて大気圏外に打ち上げられ、遠くの天体が発する様々な電磁波を観測していた。藍を含めほとんどの人間はその重要な意味を知らないだろう。
「正体が分かれば高く売れるか」
「相手次第かと」
　持ち主が地上から壊滅していなければ。私だけ惜しむ点が違うことを隠して答えた。


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それぞれ字下げと改行を除いて300文字。

「ハローハロー」
週の中頃に気象情報を追いながら思いつきました。

「流星の値打ち」
140文字練習でおなじみ、クリーチャーの侵略で宇宙開発が途絶えて人類が地上に戻された時代のファンタジー『ストレイトロード』から。
語り手ゼファールはわけあってこのあたりの話に詳しいのですが、こういうときは相棒と「波長が合わない」。
一応、前回参加できなかった分のお題「答える」も入れました。

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夏の影は

Twitter300字SS 第七十六回参加作品

お題「影」
ジャンル：オリジナル、とある普通の世界の話
注意書き：特になし

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　丘の上にあるその公園には電車を見下ろせるスポットがある。君は予想通り、線路の方を向いてベンチに座っていた。顔を輝かせたのはやっぱりクレープのせいか。
「電車が走るときは崖の下が暗くなる。そう言ったよね」
　君は受け取ったクレープを早速食べながら、フェンスの下を指す。
「こっちが昼のとき、向こうは夜」
「まあそうだね」
「じゃあ、昼の影が夜で」
　相変わらずよくわからないことを言う。
「夏の影が冬」
　確かに、ここが夏の熱い日差しにさらされる頃、地球の裏側は厳しい冬だけど。
　言おうとして、はっとした。
「あなたの影に立っていると思えば、寂しくても我慢できそう」
　来週、君は旅立つ。
　遠い場所で輝く光を思う日々がもうすぐ始まる。


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字下げと改行を除いて300文字。

細かい立ち位置や関係性などはあえて掘り下げずに書きました。
最初のイメージではもうちょっと重い話題を挟む予定だったけど字数が足りなかった。結果的にはこれでよかったのかもしれません。

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夢の場所まであと少し

Twitter300字SS 第七十五回参加作品

お題「届く」
ジャンル：オリジナル、とある普通の世界の話
注意書き：特になし

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あと一センチ。届きそうで届かなかった。背筋を伸ばして首を伸ばして、わずかに及ばず。このままずっとあの子に先を越され続けるのかしら。
仕方ないよと友達は言ってくれたけど、今の私に必要なのはフォローでも慰めでもない。
「だから先に誕生日プレゼント欲しかったの。ネット注文でもして今朝渡してくれればよかったのに」
「何が欲しいの？」
「……新しい靴」
声を小さくしたのは、まわりに聞かれるのが恥ずかしかったから。
狙いがバレバレじゃない。厚底の靴が欲しいなんて。
「今度来たら確実に乗れるよ」
「今度っていつ？」
ジェットコースターの乗り場の入口で微笑むキャラクターの看板。その背丈を越えない限り、私は中に入れてもらえない。


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字下げと改行を除いて300文字。
前回が遅刻だったので、今回は日が暮れる前に準備しました。当日には違いないのですが。
（昼過ぎまで何も思いつかなかったし、数日前までそれどころじゃないコンディションだった）

かけっこの話と見せかけて、タテ方向の勝負の話でした。
地団駄踏む子供にとっては真剣な問題ですが、迎えるスタッフにとっても別の意味で真剣。
あの制限が安全を守るための切実なものだと知るのはたいてい大人になってからで、人によっては一生気にしないかもしれません。

ちなみにあの手の制限には「届いてしまうと乗れない」パターンもあります。背丈とか腹回りとか。
どちらにしても、引っかかったら潔く諦めてください。下手すると命に関わるので。

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「旗竿状の家」

Twitter300字SS 第七十四回参加作品

お題「道/路」
ジャンル：オリジナル、とある普通の世界の話
注意書き：特になし

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　しばらく離れている間に、僕は実家に帰れなくなっていた。
　何十年も前に親が買った建売住宅は広い土地を分割したうちの中央に建っていて、周りを同型の家に囲まれている。塀に挟まれた通路を通らないと家に入れない。日当たりが悪いからいつもジメジメしている。不便も不満もあったけど、遊びに来た友達から「秘密基地みたいだ」と言われたときはちょっと嬉しかった。
　遠くの大学に進学してから接道義務という言葉を知って、隣近所の家がどんどん建て替えられているのに親がそうしなかった理由を初めて理解した。
　そして今日、僕は決意した。早く稼げるようになって新しい家を買ってあげよう。
　自分の体が通らないほど狭い道なんて誰が見ても問題だ。


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字下げと改行を除いて300文字。

いろいろあって着手できなくて、スタートから盛大に出遅れ。オチが納得いかなくて書き直してたら遅刻になりました。
それでも本文書くのにトータル３０分は頑張った方だと思うんですよ！最近全然原稿が進まなくて苦しんでいたところだったのでなおさら！

ちなみに接道義務は建築基準法の用語で、道路に２メートル以上接していない土地に建物を作ってはいけない、というルールのこと。
今回のようなケースでは通路の幅が２メートル以上ないと新しい建物の建築許可は下りないといいます。
このルールは都市計画区域にだけ適用されるので、縁がない人もそれなりにいる話です。

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