その感情の旬は春

「毎月300字小説企画」第16回のお題は「憧れ」、ということで。

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「憧れだけでは食っていけないぞ」
　先輩は言うけど諦めきれなくて、桜舞うメインストリートを走った。
　人だかりができている。キャンパスライフ初日を迎えた人々を各サークルの面々があの手この手で誘っている。新入生は立ち止まって看板を見たり、話を聞いたり、取り囲まれたり、集合場所に急ごうと強行突破したり。
　ここは狩り場だ。
　そのど真ん中で大きく息を吸った。
　春の陽気に混じって口の中に流れ込んでくるキモチはいろんな味がする。パチパチはじける希望。膨らむ野望。緊張や困惑はスパイス風味。承認欲求はあんまりおいしくない。
　そして、憧れ。甘酸っぱさと舌触りが好きだ。この季節に限らずいつでも食べられる場所がどこかにあればなあ。

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いつも通り、字下げと改行を除いて300文字。
冒頭の一言を思いついてから、勝手に違った解釈を入れていくことを思いつき、結局人間の話じゃなくなりました。……妖怪とか妖精さんとか？

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祝いごとには謂れがある

「毎月300字小説企画」久々に参加します。第１５回「酔う」のお題で。

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　記憶に残るひな祭りは実家の安上がりな飾りつけ。空き箱に布をかけ、折り紙で着飾ったぬいぐるみを並べる。菱餅の代わりにスーパーの三色団子。自分の手で飾って眺める時間はクリスマスツリーに並ぶ楽しみだった。
　無病息災を願い白酒を飲む習慣があると知ったのは社会人になってから。子どもは甘酒で代用するらしいけど、食卓にあった記憶はない。
『やっぱり覚えてないか』
　久しぶりに電話で話した母親が笑った。
『あなたが小さかった頃には、あったのよ。立派なひな人形』
　酒に酔った勢いでけんかになった両親が、勢い余って人形たちの頭を壊した。双方気まずくて修理や買い直しを言い出せず、禁酒と簡素化を決めたという。
『あのときはごめんね』

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字下げ等を除いて300字。
祝い方にもそれぞれゲン担ぎがあったり、理由があったりする。

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「つづきから？」（＆新刊の話）

昨年終了した「Twitter300字ss」さんの後継となる「毎月300字小説企画」がこの1月第一土曜日から始まりました。
様子を見るつもりだったのですが、ひとつ思いついたものがあったので突発的に書き、スマホの画面スクショという形で投稿しました。
しかしそれだけだと自分で存在を忘れ去りそうなので、改めてこちらにも書き残します。

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　引き出しの奥から初任給で買った携帯ゲーム機が出てきた。
　その頃は全然興味なくて、同期が一緒に遊ぼうと何度も誘ってくるから、仕方なく一タイトルだけつきあったんだった。初めて遊ぶ私を指導してくれる同期はゲームの中の教官より厳しくて癖が強かった。
　研修が終わったら私達は別々の支社へ異動になって、以来一度も会っていない。一人で遊んでも面白いゲームだったけど次第に手を触れなくなった。街中でロゴを見かけてもあの頃を思い出さなくなったのはいつからか。
　久々に持った本体はスマホより重く、電源は入らなかった。
　年初から泣くと思わなかった。自分で驚いて自分で笑った。
　同期の連絡先は今のスマホにも引き継がれてる。繋がるかな。

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改行や字下げのスペースを入れないでちょうど300字、のスタイルは維持していきたいです。

さて、昨年までの300字SSを「一区切り」として一冊の本にまとめる件ですが、年末のまとめ記事でも書いた通り入稿済み、あとは現物を受け取るのみという状況になりました。あっ帯作ってない。
表紙はこんな感じになりました。

1/15の #文学フリマ京都 7で300字SSまとめ本【三〇〇ピース】を販売します！
今回の新刊は、日常ときどきファンタジーな読み切りを詰め込めるだけ詰め込んだ一冊。
ほっこりする話が好きな方、刺激の少ない作品をお求めの方におすすめ。

ブース: か-07「化屋月華堂」
詳細: https://t.co/PjaAhGRe53 pic.twitter.com/9SLi4FS1es

— Rista(化屋月華堂) (@Rista_Bakeya) January 6, 2023

『化屋ブースの裏側レポート』をお持ちの方は見覚えあるかもしれません。実家の猫です。成長しました。
周辺のモザイク模様は撮影時に写っていたテレビ画面をフォトショで何重にも加工して作ったもの。当初は黄色ベースにしていましたが前作『カンパイリミテッド』とかぶってしまうので水色メインになりました（ストレイトロードの青とは違うのでセーフ）。
なお表紙画像を母（飼い主）に見せて使用OKはもらえたのですが、「もちろんギャラは出すんでしょ？」と言われては「当然です」としか返せません。よって価格は猫のおやつ代も込みで設定してます。

ページ数は『ストレイトロード - the first junction -』とほぼ同じですが、紙の違いで少し薄くなるはず。
内容はこのブログからの再録が大半、ちょっとだけテキレボの300字ポストカードからの再録もあります。作成に使える時間が少なかったので書き下ろしまでは手が回りませんでした。
でもスマホなどで読むのと紙媒体で読むのとでは印象が違うこと、紙の本のイベントに足を運ばれる方ならきっとわかるかと思います……伝われ……

そして、投稿順の収録ではありません。ある意図をもって並べ替えています。
ぱらぱら読む人にはあまり関係ないかもしれませんが、一冊を一気に読む人にとってはこうしたほうがいいのかなあと考えたことがありまして。
その並べ替えの過程で文章が不自然に欠けるなどおかしなことになってなければいいなと思うのですが、今のところそういった連絡はないので、あとは祈る気持ちばかりです。

いよいよ一週間を切りました。
まず何より、無事に開催されますように。

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「通り道」

Twitter300字SS 第九十二回参加作品
お題「来る」
ジャンル：オリジナル / 単品 / ある平凡な日常のひとこま
注意書き：特になし

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　キッチンの換気扇を外して掃除していたら娘が来た。週末だから遊びに連れていけなどと言い出すか。身構えていたら、なぜか壁の穴を見上げて喜んだ。
「とおりみちだ！」
「通り……何の？」
「サンタさん！」
　そういえば何日か前、サンタの絵本を読み聞かせたら「えんとつってなに」「どうしてそこなの」と細かいことばかり気にして話が進まなかった。まさか、煙突のない我が家の場合はどう入るのかとずっと考えていたのか。
　きれいにした換気扇を元に戻したら涙目で懇願された。
「サンタさんくるときは、はずしておいてね？」
　そのうち忘れると思いきや、今のところ毎日壁をチェックしている。あの人がクリスマス前にやって来るのは歌の中だけなのに。

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ここまで企画を取りまとめてくださったいぐあな様、お疲れ様でした。
そして毎月様々な作品を披露してきた皆様、Ristaの作品にいいねをくださった皆様、ありがとうございました。


クリスマスが今年もやってくる。
というシンプルな「来る」を最後に持ってきて、本当はもう一つくらい書きたいところでしたが間に合いそうにないので打ち止めにしました。
思えば途中から参加し始めたこの企画、いつも本文の着手も完成も割とギリギリでした。
日課の140字SSを書いた直後は300字が浮かばず、逆に300字をひとつ仕上げると140字のほうが浮かばない、などと苦戦したのも振り向けばいい思い出。
本やweb連載の原稿も一日数百字が限度、1,000字進めば調子がいいといえる遅筆タイプの自分でも、ちゃんと最後まで書ききれる手頃なサイズだったんですね。300字って。

さて、ここまで書き続けた300字作品の多くは現代もの、日常もの。ファンタジージャンルの小説書きの割に不思議要素少ない話ばかりというのが逆に不思議ですね。
テキレボの方でポストカード企画に出していたものも割とそうでした。
そんな300字作品をこのままブログに置きっぱなしも何なので、「ストレイトロード」などのシリーズ系統を除いた単発ものを、小さな本にまとめてみようかと考えています。
年明けの文学フリマ京都への参加が決まりましたので、そこ合わせの新刊のつもりで。
表紙も構成も今から考えるくらい漠然とした話ですが！
そういえば久しぶりの新刊！がんばろう！

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「ある目撃者の震撼」

Twitter300字SS 第九十一回参加作品
お題「謎」
ジャンル：オリジナル / 近未来冒険FT『ストレイトロード』から
注意書き：特になし / 本編未読でもたぶん大丈夫です

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　ただ一度、決定的な事件を目撃した、それだけで人生は変わるのか。
　専門家でも犯罪者でもないのに連日警察へ呼び出され、軍からも電話が来た。番号が本物だと確認してからソファーに身を沈める。
　嫌でもあの日を思い出した。
　青い炎。何が爆発したのか。どうして巨大生物は車列に飛び込んだのか。
　調べ始めたら今度はメールが来た。差出人は有名な化け物ハンターだ、マジかよ。そいつも目撃証言が欲しいらしい。どうやって俺の存在を知った？
　恐ろしくなって画面を切り替えた。古い写真とネットの記事を合成するくらいならAIに頼らなくてもできる。
『この謎を解けたら取引に応じてもいい』
　存在しない写真の現場を求めて地球の果てまで行ってしまえ。

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日課の140字のお題で同じ単語を使うことにして先に話を書き、同じセリフを使って300字も仕上げました。140字のほうはツイッターを参照。
毎回その場の即興で「舞台上の出来事」を考えているだけなので、作中の年表上重要な問題とか背景とか、そういうのはないです。これから生える土台になるかもしれませんが。

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